「もしトラ」シナリオがはらむ安全保障の死角 知日・知米派韓国人からみえる日米韓協力関係の隙間
東洋経済オンライン / 2024年3月23日 8時0分
2023年8月、アメリカ・メリーランド州のキャンプ・デービッドで開催された日米韓首脳会談の記者会見に臨む韓国の尹錫悦大統領(左)とバイデン大統領、岸田文雄首相(写真・2023 Bloomberg Finance LP)
危機管理の基本は「最悪のシナリオを想定すること」といわれます。ところが逆に、最悪のシナリオに死角があるとすれば、それは重大な問題です。
最近、日本では台湾有事に関する論議が盛んです。しかし2024年1月の台湾総統選挙の結果を受け、危機分析で著名なユーラシア・グループのイアン・ブレマー氏や前中国大使の垂(たるみ)秀夫氏など有識者が、短期的には有事にはならない、との見解を示すようになりました。
朝鮮半島こそ危機の種
それなら、本当の有事はどこにあるのか。日本からもっと近いところ、すなわち朝鮮半島に危機の種が存在するのではないか。
もし朝鮮半島に有事が起きるのであれば、これがどのように起こるのかがわかりづらい。例えば、北朝鮮が日本を直接攻撃する危険性がありますが、まずは韓国から火の手が上がり、有事が拡大する可能性が高まっています。
実際に、2024年1月、北朝鮮の金正恩総書記は「韓国は敵国」との趣旨の発言をしたこともあります。
この結果、韓国で発生した有事が日本へドミノ的に影響を与えるという可能性が見え隠れします。これは、アメリカのトランプ前政権が金正恩氏と2回の首脳会談を行った過程を振り返ると、余計にその可能性がちらつきます。
日本の国際政治学者である中西輝政氏も「韓国を敵陣営に回してよいのか」とした論文を発表し、朝鮮半島を南北に分断する38度線が、対馬海峡にまで南下する局面を想定しています。
これは、明治時代の山縣有朋が1890年、第1回衆議院議会で提唱した「主権線と利益線」の概念、すなわち地政学的バッファーとしての朝鮮半島、の焼き直しとみることができます。
つまり、朝鮮半島有事は日本有事の導火線になる可能性が高いということになります。
一方、経済安保や半導体産業の観点からすれば、台湾の半導体ファウンドリー企業・TSMCがしきりに話題になっていますが、サムスン電子やSKハイニックスなども人工知能(AI)に不可欠なメモリー半導体を製造しています。
それらの韓国における生産拠点に危機が近づけば、日本のメモリー需要に関わるサプライ・チェーンが大混乱することは明白です。ちなみにこの2社だけで、DRAMにおける世界シェアは7割を超えています。
即興的なディールの危うさ
2024年11月に行われるアメリカ大統領選挙で、共和党候補としてトランプ氏が確実視され、「もしもトランプが再び政権をとったなら」という「もしトラ」という言葉が聞かれるようになりました。この「もしトラ」で少し考えてみましょう。
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