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「MMT」はどうして多くの経済学者に嫌われるのか 「政府」の存在を大前提とする理論の革新性

東洋経済オンライン / 2024年3月25日 9時0分

本稿では、伊藤氏のMMT批判に対する反論は一部にとどめ、「理論構造の根本的な違い」というより大局的な観点から、主流派・非主流派を問わず多くの経済学者がMMTを否定する背景を論じてみたい。

なぜなら、MMTをめぐる個別の論争の中身や当否を理解してもらう上でも、まずはそうした背景を明らかにすることが有益と考えられるからである。

商品貨幣論の欠陥を克服するMMT/表券主義

主流派やマルクス派は、「貨幣とは、金や銀のようなそれ自体に素材価値のある商品を、交換手段として経済取引に導入したものである」という商品貨幣論に依拠している。貨幣が導入される前は物々交換経済があり、貨幣も元々は市場で交換される商品の1つであったというわけだ。

だが、商品貨幣論は、現代の日本における日本銀行券(紙幣)のように、素材価値が乏しく貴金属などとの交換も約束されていない法定不換貨幣(fiat money)が通用している現実をうまく説明できない。『マンキュー マクロ経済学』のような標準的な主流派の教科書でも、法定不換貨幣が通用している理由については、自らの理論的不備を自覚しているかのような、いかにも歯切れの悪い説明がなされている。

また、アメリカの人類学者デヴィッド・グレーバーが『負債論』で指摘しているように、商品貨幣論が想定するような物々交換経済はそもそも存在していなかったというのが、人類学的事実である。

なお、『負債論』では、伊藤氏が商品貨幣の事例として挙げている第二次世界大戦時の捕虜収容所における「タバコ貨幣」も取り上げられているものの、すでに貨幣の使用に親しんでいる人々が何らかの理由(特に、国民経済の崩壊)で貨幣を入手できなくなった時のやむを得ないやり繰りの手段とされている。実際、そうした現象は所詮一時的なものに過ぎず、貨幣制度の定着を説明する論理であるはずの商品貨幣論の裏付けとするのは相当な無理があるだろう。

対するMMTは、「貨幣の本質は発行者の債務証書であり、そこで約束された貨幣保有者にとっての債権こそが貨幣の価値を裏付けている」という「債権貨幣論」に依拠している(MMTの貨幣理論を示すcredit theory of moneyは「信用貨幣論」と訳されることが多いものの、「信用貨幣」は「本来の貨幣との交換が約束された代用貨幣」という意味の商品貨幣論的な用語であり、訳語として適当ではないと考えられることから、ここでは「債権貨幣論」としている)。

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