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「MMT」はどうして多くの経済学者に嫌われるのか 「政府」の存在を大前提とする理論の革新性

東洋経済オンライン / 2024年3月25日 9時0分

例えば、銀行預金は、政府部門が発行する貨幣(中央銀行券や硬貨といった現金)との交換が約束された債権貨幣である。

そして、MMTによれば、政府は、あるものを(納税を典型とした)自らに対する支払いの手段に指定する、すなわちそれに「政府に対する支払債務を解消できるという債権価値」を付与することによって、貨幣として通用させることができる。

これは、元々はドイツ歴史学派の経済学者ゲオルク・フリードリヒ・クナップが20世紀初頭に提唱した「表券主義」と呼ばれる貨幣理論である。

表券主義という貨幣理論

表券主義によれば、素材価値の乏しい法定不換貨幣が通用する理由を矛盾なく説明することができる。また、納税などの商品経済に属さない行為によって貨幣の成立を説明するため、物々交換経済がかつて行われていたというフィクションを前提とする必要もない。

表券主義を実証した社会実験とも言えるのが、近代ヨーロッパ諸国のアフリカ植民地における経験である。当時の植民地政府は、本国通貨や植民地政府自身が発行する通貨を支払手段とする人頭税を課すことによって、当該通貨建ての賃金を対価として現地の労働力を動員することに成功した。さらに、その副産物として、それまで商取引のない部族社会であったところに貨幣経済が成立したのである。

とはいえ、政府の統治・徴税基盤が弱い途上国のように、政府に対して支払う必然性が相対的に乏しければ、政府が指定したものが直ちに貨幣として通用するわけではない。これもまた表券主義の帰結であり、途上国において米ドルなどの外貨と自国通貨とを一定比率で交換する権利が約束されたり(固定為替相場制)、自国通貨の代わりに(より支払ニーズの高い)外貨が流通したりするのはそのためである。

ちなみに、崩壊直前の旧ソ連でアメリカのタバコ(マルボロ)が貨幣として使われたのは商品貨幣論を裏付ける事例であるというのが伊藤氏の議論だが、実は表券主義(及び先述したグレーバーの議論)によっても十分説明可能である。

すなわち、当時のソ連では外貨取引が刑法によって禁じられ、取引額によっては銃殺刑にされるおそれすらあったため、同様に統治・徴税基盤が崩壊状態の他国であれば流通するはずであった米ドルの代わりに、(おそらくは高額で転売できる可能性が高いなどの理由で)マルボロの使用が「やむを得ず一時的に」選択されたというだけの話である。

このように、商品貨幣論の欠陥を克服しつつ、従来は商品貨幣論の事例とされてきたものも含め、貨幣現象のより包括的な説明を可能にするのがMMTの貨幣理論である(伊藤氏の論稿にはMMT批判の材料として他にも様々な貨幣現象が挙げられているが、それらについては稿を改めて取り上げることとしたい)。

商品貨幣論に固執する両学派の理論構造

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