「物価と賃金の好循環」は本当に持続可能なのか 「勝負の3年目」となる2025年に必要なものは?
東洋経済オンライン / 2024年3月30日 8時30分
この結果を受けて、翌週3月19日には日本銀行が長年にわたる「異次元緩和」を取りやめた。マイナス金利を解除したのみならず、YCCなど長期金利をコントロールする枠組みも廃止した。ETF(上場投資信託)やJ-REIT(不動産投資信託)などの新規買い入れも終了。今後は短期金利の操作によるごく普通の金融調節に戻る。「賃金が重要」「春闘を重視する」と言い続けてきた日銀にとって、3月15日の第1回集計は文字通りの「満額回答」であったのだ。
実際には春闘はこの後も継続し、連合は7月まで集計を繰り返す。ただし例年の作業を見る限り、1回目と最終7回目の数値はほとんど変わらない。特に今年の場合は「一発回答」が多いようなので、労使交渉が長引くことは少ないだろう。
実際の賃金の改定作業は、5月頃から夏場にかけて少しずつ反映されていく。問題はこの賃上げを受けて、個人消費がちゃんと伸びるのか。そのうえで物価も堅調に推移するかどうかであろう。4月以降の消費と物価のデータを、しっかりウォッチしていく必要がある。
企業が賃上げした分を、ちゃんと取引価格に転嫁できるかどうかも気になるところだ。そうでないと、来年の賃上げができないことになってしまう。何しろ「物価と賃金の好循環」はまだ2回り目に入ったばかり。定着するかどうかは、まさにこれからである。
気が早いかもしれないが、来年の春闘で3年連続の賃上げができるかどうかは、「生産性の低い分野から高い分野への労働移動」が進むかどうかに懸かっていよう。こういうと美しく聞こえるけれども、ありていに言ってしまえば、「競争力のない会社から、もっと条件のいい会社に働き手が転職する」ことを意味する。
労働移動が進むことは、資源の最適配分につながる。ゆえに日本経済全体の成長力も向上することになる。他方では、中小企業の人手不足倒産や、地方経済の疲弊なども考えられる。だからと言って、ここで生産性の低い企業に対して政府が手を差し伸べたりすると、せっかくのモメンタムが失われてしまう。ゆえに立場によっては、現状は「物価と賃金の悪循環」に見えているかもしれない。
あらためてなぜ今、物価と賃金の変化が始まったかといえば、ひとつには海外発の輸入インフレが到来したからだ。日銀が言うところの「第一の力」であり、いわば他律的な物価上昇である。これらはすでに一巡しつつあり、前年比で見た「モノ」価格の上昇幅は小さくなりつつある。
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