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大谷選手の記者会見が「成功」を収めた3つの理由 「自分の言葉」で話すことから生まれる真摯さ

東洋経済オンライン / 2024年3月30日 12時10分

“自分の言葉で話すこと”の強みとは(写真:Wellphoto/PIXTA)

率直なところ、大谷選手の記者会見をみて多くの方が「安堵した」のではないだろうか。大谷選手が自分の言葉で、普段通りの調子で、ことの経緯を、水原氏への複雑なる胸中を語る様子をみて、願望込みで、やはり多くの方が記者会見に前向きな感情を持ったと考えられる。

その理由を、経済学者にして、YouTuberとして、さらには起業家としてプレゼンで道を切り拓き、その知見を『一生使えるプレゼンの教科書』として発表した中川功一氏が明らかにする。

捜査の結果が出ていないうちに語るのは、時期尚早かもしれない。また、彼のプレゼンを理論的に分析するというのも、実にやぼなことでもあるかもしれない。だがそれでも、プレゼンの専門家として、(捜査の結果がどう出るかは、また別の問題として)今回の彼の記者会見は成功だったと評したうえで、ではなぜ成功を収めることができたのか、論じておきたい。

“オーセンティック”な語りがもつ力

プレゼンの専門家として、私がみる大谷選手の記者会見の成功理由は「大谷選手が、普段と変わらぬ調子で、自分の言葉を使って語ったこと」だと考える。経営学ではこれをオーセンティック(Authentic:自分らしく真摯であること)という。オーセンティックに語ることが何よりも説得力を持つ理由については、実は古代ギリシアの時代から研究蓄積があり、その理由は大きく3つにまとめられている。

第1は、そこに素直な論理性があることだ。私たちは大谷選手の語りによどみがなく、実に自然で、ストーリーに破綻がない様子を見て取った。論理性は説得力の基本的源泉である。では、どうやれば論理を自然に作ることができるのか。オーセンティックであることは、ここで生きてくる。嘘偽りがないなら、自分に見えたままに、自分の言葉で語ればよいのだ。入れ知恵を想起させるような難しい言葉や、何かを隠すようなあいまいな言葉が使われないことで、誰もが追いやすい、素直な論理がそこに生まれてくる。

第2は、オーセンティックに語ることで、感情移入のしやすい、自然な情緒性がそこに生まれることだ。舌鋒鋭く非難する口調や、劇的な表現、激しい怒りの感情を込めた言葉が、その狙いの通りに機能することはない。……皆さんは国会の政治家の弁論に心を動かされたことが、あるだろうか。本来、そんな様子では人々の支持を得られないはずなのに、その話しぶりから脱せられない老人たちの様子を見るに、私たちの国家の中枢機関が機能しているのか不安になるが――それはさておき。大谷選手は、自然体な語りによって、情緒面でも人々の前向きな評価を取り付けることに成功しているのだ。

私たちは最初から、大谷選手は無実だと決めていた

だが、今回の大谷選手の記者会見が大きく成功した理由は、もっと別のところにある。そしてこれこそが、オーセンティックにあることの、第3の、そして最大の強みなのだ。

今回の大谷選手の騒動、大谷選手が記者会見を自ら開くとなったとき、皆さんはその報を聞いたその時点ですでに、大谷選手は無実だと、判断をつけていたのではないだろうか。

私たちの脳には実に都合のよい機能がある。確証バイアス、という。私たちは、見たいものしか見ないし、聞きたいようにしか人の言葉を聞かないのである。大谷選手はそんな人じゃない、大谷選手は無実であってほしい、無実であるべきだ……そのような姿勢で、多くの方は記者会見を見たのではないだろうか。……だとすれば、その結果は明らかだ。私たちは何を聞いたところで、自分たちの都合の良いようにしか解釈しない。大谷選手が無実であるという前提のもとに話を聞くのだから、多少の疑念など、吹き飛ばされてしまう。

――ではなぜ、私たちはそのような態度で、大谷選手の会見を聞いたのか。それは、大谷翔平という人物が、常日頃からオーセンティックであったからだ。誠実に競技に打ち込み、飾りのない素直な言葉を使い、仲間を大切にし、人々への感謝や敬意を忘れない。大谷選手の日ごろからの言動がそのようなものであったことが、こうした局面で、彼の言葉に力を持たせたのである。

オーセンティックであることの、第3の強みは、人格的に尊敬・信頼されるようになることである。この、論理性、情緒性、人格性を、かのアリストテレスは説得の3要素とした(ロゴス・パトス・エトス)。

京セラ、KDDI、JALと3つもの会社経営を成功させた稲盛和夫は、主著『生き方』において、次のように語っている。

“私の成功に理由を求めるとすれば、(中略)私には才能は不足していたかもしれないが、人間として正しいことを追求するという、単純な、しかし力強い指針があったということです”『生き方』より

日ごろから正しくあること。この言葉の前には自己反省しかないが、その大切さを改めて思い起こさせる、大谷選手の記者会見だった。

中川 功一:経営学者、やさしいビジネスラボ代表取締役

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