国民保守主義も「意識高い系」も自由を滅ぼす 表面的には対立する理念が実は通じ合う逆説
東洋経済オンライン / 2024年4月9日 13時0分
こちらは「スーパーリッチの意向に合わせた少数支配」をめざしているのです。
となると、「意識高い系資本主義」によって経世済民が達成されるとも信じがたい。
自由民主主義は再生できるか
「意識高い系」の主張は、しばしば少数派の権利の擁護と結びつく。
おまけにグローバリズム志向が強いのですから、ナショナリズムと「多数派の意思」にこだわる国民保守主義が、「意識高い系資本主義」を目の敵にするのも当たり前でしょう。
だが国民保守主義は権威主義をめざし、「意識高い系資本主義」は少数支配をめざす。
「社会の多数派(とされるもの)の意向」を絶対視するか、「意識高く進歩的な富豪層(とされるもの)の意向」を絶対視するかの違いがあるだけで、あとはほとんど変わりません。
先に紹介した「エコノミスト」の記事も、ずばりこう述べました。
「自由を否定する左派と、同じく自由を否定する右派は不倶戴天の敵に見えるものの、『意識高い系』の是非をめぐって激突することで、互いに塩を送り合っているのだ」
同じ穴のムジナというわけですが、ここでやりとりされる「塩」とは何か。
お分かりですね。
自由民主主義の否定です。
より具体的には「国民規模で多元的な利害調整を続けてゆけば、経世済民の達成・維持はもとより、地球規模の問題への効果的な対処も可能となる」という発想の否定。
国民保守主義は「自由民主主義のもとでは、グローバリズム勢力や『意識高い系』によって多数派が割を食う」と考える。
だから権威主義が魅力的に映るのです。
片や「意識高い系資本主義」は「自由民主主義のもとでは、政府は地球規模の問題はもとより、国内の問題についても有効な対処ができない」と考える。
だから国境を越えた少数支配が理想となるのです。
どちらの立場にも重大な欺瞞が潜んでおり、経世済民の達成など望みえないのは、すでに論じたとおり。
ただし重大なのは、自由民主主義が機能不全をきたしているという基本認識に関するかぎり、両者はそろって正しい可能性が高いことです。
待ち受ける二者択一とは
むろんこれは「グローバリズムには弊害が多いものの、ナショナリズムに徹するには地球規模の問題が多すぎる」というジレンマの現れ。
国民保守主義と「意識高い系資本主義」は、自由民主主義への幻滅から生まれた双子の兄弟のごとき理念であり、だからこそ本質において通じ合うのだと評さねばなりません。
そしてどちらの解決策も役に立たない以上、われわれは自由民主主義の再生を図ることで、未来への道を模索しなければならない。
決して容易ではないでしょう。
けれども模索に失敗すれば、待ち受けているのは「自滅的な権威主義か、富豪だけが栄える少数支配か」の二者択一なのです。
佐藤 健志:評論家・作家
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