「高齢者アンダークラス化」するミドル期シングル 「ゆるいつながり」で親密圏を形成できるか
東洋経済オンライン / 2024年4月15日 10時0分
いや、無関心というのではない。むしろ、日本社会では久しく「家族を作るな」というイデオロギーが支配的だった。本書には言及されていないが、私の知る限り少なくとも1980~1990年代においてはシングルであることは、都市生活者につよく勧奨された生き方だった。
糸井重里は1989年に『家族解散』という小説で中産階級のある一家が離散する過程を活写した。一人ひとりが「自分らしく」生きようとしたせいで「家族解散」に至る物語である。でも、これは悲劇ではなかった。何より「家族解散」は市場に好感された。なにしろ、家族が解散すれば、不動産も、家電製品も、自動車も、それまで一つで済んでいたものが人数分要ることになるからである。家族解散は「市場のビッグバン」をもたらした。だから、「家族を作るな」というのは資本主義からの強い要請でもあったのである。
そういう時代を生きた人たちが家族形成に強いインセンティブを感じなくなったということはあって当然だと思う。人口動態がそれを示している。
「全国のシングルの総数は、1980年の711万人から2000年の1291万人をへて2020年には2115万人にまで増加しました。40年間で2.98倍になったということです。」(前掲書、45頁)。
2115万人のうち男が1094万人、女が1021万人。男では、未婚・ミドル期が29.8%、未婚・若年期が29.6%。女では死別・高齢期が32.4%、未婚・若年期が23.3%、未婚・ミドル期が16.9%(前掲書、47頁)。ミドル期シングルは1980年に35万人、2000年に156万人、2020年に326万人。40年間で約10倍に増えた勘定になる(前掲書、21頁)。離婚してシングルになる人たちもいる。男は1980年に17万人、2000年に59万人、2020年に93万人。女は25万人、48万人、77万人。これも急増している(前掲書、21頁)。
でも、この極端な人口動態上の変化に日本人は特段の関心を示さなかった。結婚したくない、家族を形成したくないという人が増えてきました。ああ、そうですか。お好きにどうぞ。という話で終わった。
この集団がいずれ遭遇するであろう「経済的困窮や社会的孤立という問題が深刻化するという未来のリスク」に「いちはやく」着目した研究が登場したのが2010年だと本書には書いてある(前掲書、22頁)。「いちはやく」ということは「それまで誰も研究しなかった」ということである。
配偶者のいない生き方を選ぶようになった理由
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