激しく扉を叩いて…夜中「紫式部」訪れた男の正体 「布一枚残して消えた」空蝉と紫式部の共通点
東洋経済オンライン / 2024年4月21日 14時0分
かなり強引に迫ってきた光源氏だが、空蝉は彼の魅力に関して決して無関心ではない。できるものなら、キラキラと輝く殿上人との危険な情事に飛び込みたい気持ちは山々だが、一度後ろ盾を失くして、路頭に迷いそうな経験をしているからこそ、現実を甘く見ていられなかった。身分秩序を重んじる男性優位社会の中で、中流にすぎない女たちの運命はどれだけ脆くて切なかったのか、痛いほど伝わってくる。
で、リアル空蝉こと、紫式部の方はどうだろうか? 彼女も「袿を脱ぎ捨てる」的局面に立たされたことはあっただろうか?
『紫式部日記』の後半で、年代がはっきりしない記事がいくつか綴られている。どのような経緯で日記に追加されたのか不明だが、その中には以下のような意味深な断片がある。
渡殿に寝たる夜、戸を叩く人ありと聞けど、おそろしさに音もせで明かしたるつとめて、夜もすがら水鶏よりけになくなくぞ真木の戸口に叩きわびつる返し、ただならじとばかり叩く水鶏ゆゑあけてはいかにくやしからまし
【イザベラ流圧倒的意訳】
夜、渡殿の局に寝ているときに、誰かが戸を叩く音がして、恐ろしくって、息を殺して一夜を明かしたわ。朝には次の歌が送られてきた。
一晩中、俺は水鶏以上になくなく君の戸を叩きあぐねたんだよ。
それに対して、確かにとんだ騒ぎだと思ったが、一瞬だけの思いつきだったでしょう。そこまで熱心になく水鶏だからこそ、戸を開けてしまったらどうなっていたことやら
真夜中に、ドアを激しくドンドン叩かれる音で起こされたら、誰だって怖い。ドアの向こうにいるのが知っている人だったとしても……。
『紫式部日記』の記事の中では、そんな迷惑行為をしてきた人の正体は明らかにされていない。しかし、最初の歌は『新勅撰和歌集』にバッチリ入集されていて、作者は法成寺入道前摂政太政大臣ということになっている。それはつまり藤原道長なのである。
道長はなぜ、すごい勢いで紫式部がいるお局の戸を叩きに行ったのだろうか? そもそも彼クラスの殿上人なら、女房ごときの部屋まで出向かなくたってよかったはずだ。2人の間には一体何が起こったのか!? といろいろ気になってしょうがない。
紫式部はなぜ戸を開けなかったのか
空蝉が光源氏の愛を拒絶した理由は、夫を愛していたからでもなければ、不道徳な恋に踏み切りたくなかったからでもない。彼女は自らの危うい立場をわきまえて、自分を守ろうとしていたにすぎない。
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