「運」で未来が決まる理不尽な社会に怒っていい 「だってしょうがなくね?」のままでいいのか
東洋経済オンライン / 2024年4月24日 12時30分
「ベーシックサービス」という言葉を知っていますか? 「ベーシックインカム」が全ての人に定期的にお金を与える施策であるのに対し、「ベーシックサービス」とは医療や介護、教育といった誰もが必要とするサービスを誰もが無償で使えるようにしようという提案です。
財政学者の井手英策氏は貧しい母子家庭で育ち、社会の理不尽に直面しながらも大学教授となりました。仕事や家庭は順調でしたが、ある日、脳内出血で生死の境をさまよいます。
これらの経験から、井手氏は「どんなに努力して成功を手に入れたとしても、私たちの未来は簡単に運に左右されてしまう」と実感。たまたま不運に見舞われた人たちが、安心して生きていける社会を作るべきではないか、と語ります。
本記事は井手氏の『どうせ社会は変えられないなんてだれが言った?』を大幅加筆し、このほど刊行された『ベーシックサービス:「貯蓄ゼロでも不安ゼロ」の社会』から一部を抜粋、再編集したものです。
誰もが不運と隣り合わせ
たまたま運が悪かった人たちのこと。それはおそらく、ほとんどのみなさんにとって他人事(ひとごと)なのかもしれません。
でも本当にそうでしょうか。
高収入の共稼ぎカップルを考えてみてください。パートナーが心の病に倒れたとします。
彼/彼女が失業すれば、住宅ローンはどうなります? 子どもの教育費はどうなります?
親が要介護状態になり、介護のために仕事をやめる人がいます。どんなに苦労をしても親を最期まで大事にしたいというやさしさがそこにはあります。
ですが、親の病自体が運であり、親が何歳まで生きるのかによっても、肉体的、金銭的な負担、仕事に戻れるタイミングが大きく違ってきます。ここでも全てが運に支配されています。
この運次第でどちらに転ぶかわからない《将来不安》という名の恐怖は、貧しい人たちだけでなく、全ての人たちにひらかれているのではないでしょうか。
それだけじゃありません。悲しいことに、いずれの例でも、人間が生きのびることによって、まわりにいる家族が不幸になったり、負担を強いられたりする可能性があります。
これって当たり前なんでしょうか。
いま、大勢の大人たちが日々の暮らしに、老後の暮らしに、言い知れぬ不安を抱え、おびえています。
それなのに、私たちは、不安定な世の中に人生をかけろ、未来の幸せのためにいまをガマンしろ、と子どもたちに言わなければならないのです。
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