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TVマン見た「絶滅危惧種と暮す民族」驚く日常(後) 2時間のトレッキングで見つけた「景色」「真実」

東洋経済オンライン / 2024年4月27日 8時2分

中央には平らな岩がある。その岩に一度着地し、もう一度飛べば、川を越えられるかもしれない。岩を注意深く観察すると、表面は濡れているが少しザラついており、段差もあることがわかった。

何とか行けそうだ。俺は勇気を出して、三段跳びのように右足で岩に着地し、そのまま反対側に飛び越えた。両足は川の水で少し濡れたが、何とか渡ることに成功した。しかし、女性の足には少し厳しいかもしれない。

「ごっつさん、滑りました?」

「少し滑るかも。一回その岩に飛び乗って、体勢を変えてからもう一度ジャンプしたほうがいいかも」

「えー、怖い」

足元が滑って、頭を打ったら大惨事になるかもしれない。脚力が追いつかず、岩に辿りつかなかったら、落下し、川にのみ込まれる可能性もある。失敗は命に直結する。

俺は頭を切り替えた。自分の恐怖が伝播し、彼女の動きに悪い影響を与えてしまってはいけない。表情をゆるませ、余裕を見せた。晴れやかな声ではっぱをかける。

「行ける行ける。真ん中が平らだから大丈夫だよ。飛び移っちゃえば、あとは余裕だよ」

カナさんは少しためらってから片足でジャンプをし、岩に飛び移った。体を曲げ、手で岩を触りながらバランスよく体勢を整える。なんとか一つ目の難関は突破できた。

次はこちらに飛び移ればいい。彼女は蹴り上げる足場を探し、こちらに向かってもう一度ジャンプした。俺は少し高いところから、彼女の手を握り、引っ張り上げた。

「おー、さすが山ガールだね。脚力がすごい」

「あの岩、結構ツルツルしてて、着地したとき、少し滑って怖かったです」

「急ごう。これ以上、雨が強くなるとどうなるかわからない」

二人は辿ってきた道を急いで戻る。途中、ゴーッという唸り声をあげた強風が吹くと、体を折り曲げてしゃがみ込み、風が収まるのを待った。

ダウンジャケットはびしょびしょになり、雨水がパンツの中まで染み込んでくる。身体の体温を奪われ、命の灯火が消えていく感覚に陥る。動いて発生した熱よりも、奪い取られる熱のほうが大きいのだ。

自然の厳しさと人の優しさを思い知る

「自然は優しい」「緑の力」「大自然は心を豊かにする」という都会で見たキャッチコピーが嘘くさく感じられた。本当の大自然はいとも簡単に人の命を脅かす。

ここでは、自然はただの自然であり、人間も野生動物と変わらない。頭と身体を使って戦い、生き抜かなければならない。強い気持ちが心の底から湧き上がってくる。

雨に打たれながら歩くと、1時間ほどでムドの村が見えてきた。家や建物、人間が作り出したものに、ほっとした気持ちが湧く。何よりも、同じ人間がいるということに安堵を感じた。宿に着いたときには、体が冷え切っており、ブルブルと震えていた。

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