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TVマン見た「絶滅危惧種と暮す民族」驚く日常(後) 2時間のトレッキングで見つけた「景色」「真実」

東洋経済オンライン / 2024年4月27日 8時2分

「寒かっただろう。お湯を沸かして待っていたよ。バスルームのバケツに熱いお湯があるから、浴びておいで」

平たい顔をした宿のオーナーは、豪雨の中、帰ってこない二人を心配して待ってくれていた。バスルームで、スピティに到着して初めてお湯を浴びた。体全体に熱が広がり、正常な機能を取り戻していく。

ぼんやりしていた頭も、霧が晴れたようにクリアになっていく。温かさが、心まで包み込み、生きる力が湧いてくる。お湯がこんなにありがたいと感じたのは、生まれて初めてだった。

食堂に行くと、囲炉裏に火が焚かれ、部屋は熱く温まっていた。宿のオーナー夫婦の心遣いが心に沁みる。

「ありがとうございます。ここに来て、初めてお湯を浴びました。本当に感謝しています」

電気が少ないスピティでは、燃料はとても貴重で、お湯で体を温めることをあきらめていた。すると、オーナーはジョークを交えながらこう言った。

「君を温めているのはヤクの糞だ。お湯もヤクの糞で焚いているし、その囲炉裏の燃料もヤクの糞。君は糞に感謝してるんだよ」

そして、ゲラゲラと笑った。奥からオーナーの妻がお茶を持ってきた。

「これを飲んだら温まるわよ。ヤクのバターで作ったお茶。きっと元気が出るわ」

熱いヤクのバター茶を飲むと、喉から胃まで熱さが通っていくのがわかった。体が温まるだけでなく、芯からエネルギーが湧いてくる。

「これ、ヤバいっすね。体に力が入ります」

夫婦は優しい目をして笑った。彼らの笑顔に、ほんの少しだけ目頭が熱くなる。その笑顔には本当に強いものだけが持つ、優しさが滲み出ていた。

「ヤクがいなければチベット族もいない」

かつて、チベットの英雄、パンチェン・ラマ10世は「ヤクがいなければチベット族もいない」と言った。古の旅人も、ヤクの力で極寒の地を乗り越えてきたのだろう。

2000年も昔から、ヤクとともに生きてきたチベットの山岳民族。人々にとってヤクはただの家畜ではなく、かけがえのない仲間に違いない。

塩味のバター茶が体に染み込むたびに、ヤクへの感謝が湧き上がり、ここに住む人々のことをほんの少しだけ理解できた気がした。


*この記事の前半:TVマンが見た「絶滅危惧種と暮すチベット民族」驚く日常(前編)

*この記事の続き:TVマンが見た「絶滅危惧種と暮すチベット民族」驚く日常(中編)

後藤 隆一郎:作家・TVディレクター

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