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プロジェクトに失敗する人と成功する人の決定差 世界に誇る建築家の功績は「なぜ」から生まれた

東洋経済オンライン / 2024年5月1日 16時30分

グッゲンハイム・ビルバオは当然のように、ゲーリーの想像力と才能の賜(たまもの)として称賛されている。もっとシニカルな人なら、建築家が肥大したエゴと個性をほしいままに発揮する、「スター建築家」現象の産物と片づけるかもしれない。

どちらの説明も間違っている。

目的に合わせて「アイデア」を動かす

ゲーリーは1990年代にこのプロジェクトを初めて打診されたとき、ビルバオに飛んで、スペイン北部のバスク州の政府高官と会った。プロジェクトの依頼主である州政府は、ソロモン・R・グッゲンハイム財団に資金を提供して、ビルバオ・グッゲンハイム美術館の建設と運営を任せる計画を立てていた。そしてそのために、1909年に倉庫として建設された優美な廃ビルをすでに選定していた。この建物の改築を手がけてもらえないでしょうか?

ほかの建築家なら、「いいえ、結構です」と言って立ち去るか、または「はい喜んで」と言って直ちに仕事に取りかかっただろう。ゲーリーはどちらでもなかった。彼は質問をした。まずは最も基本的な質問だ。「なぜこのプロジェクトを行うのですか?」

バスク州はかつて重工業や造船業の中心地として大いに繁栄していた。だが今やその栄華は見る影もなかった。「ビルバオはデトロイトほどひどくはないが、それに近かったね」とゲーリーは後年に語っている。「鉄鋼業が消え、海運業が消えた。とても寂れていたよ」

ビルバオは外国人が名も知らない、色あせた遠くの街で、スペインやマドリードに毎年押し寄せる、膨大な観光客の恩恵をまるで受けていなかった。グッゲンハイム美術館なら、ビルバオに観光客を呼び込み、経済を活性化できると州政府は考えた。オペラハウスがシドニーとオーストラリアに与えた恩恵を、ビルバオとバスク州にもたらしてくれる建物がほしい。なんとかしてビルバオを再び世界地図に載せ、成長を取り戻したいのだと、高官たちは訴えた。

ゲーリーは古い倉庫を見て回った。建物自体は気に入ったが、そのような目的のプロジェクトにふさわしいとは思えなかった。建物を解体して一から新しい美術館を建てることもできるが、ほかの用途に使える建物を壊してしまうのはしのびない。

ゲーリーには別のアイデアがあった。彼は川沿いの工場跡地に目をつけていた。改築のことは忘れましょう、と彼は言った。この川沿いの土地に、目を見張るような新しい美術館を建てるのです。

政府高官はこのアイデアを受け入れた。それも当然のことだった。経済活性化という野心的な目標を達成するためには、観光客を呼び込むことが欠かせない。建物を改築して、その中に新しいグッゲンハイム美術館をつくれば、理屈の上では大きな注目を集められるかもしれない。

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