ポーランド政府が隠した、難民の「不都合な真実」 強制送還されるか、極寒の森の中を彷徨うか…
東洋経済オンライン / 2024年5月3日 13時30分
『人間の境界』は5月3日よりTOHOシネマズシャンテほかにて全国順次公開©2023 Metro Lato Sp. z o.o., Blick Productions SAS, Marlene Film Production s.r.o., Beluga Tree SA, Canal+ Polska S.A., dFlights Sp. z o.o., Česká televize, Mazovia Institute of Culture
2021年、ベラルーシ政府がEUに混乱を引き起こす狙いで、大勢の難民をポーランド国境へと移送する<人間兵器>とよばれる策略を行った。
【写真】『人間の境界』では、実際に難民だった過去や支援活動の経験を持つ俳優をキャストに抜擢。
そしてその策略に対抗するため、ポーランド政府はベラルーシとの国境付近に非常事態宣言を発令。国境付近は、EU諸国への亡命を求める人々であふれていたが、ポーランド政府はベラルーシから移送される難民の受け入れを拒否。しかもこの地域へのジャーナリスト、医師、人道支援団体らの立ち入りも禁止した。
死の恐怖にさらされた難民たち
入国を拒絶された難民たちは国境警備隊に捉えられ、暴力が蔓延するベラルーシに強制的に送り返されるか、あるいは国境付近で立ち往生し、ポーランドの極寒の森をさまようなど、どちらに転んでも死の恐怖にさらされることとなった――。
5月3日よりTOHOシネマズシャンテほか全国順次公開となる『人間の境界』は、ベラルーシ、ポーランドの国境付近で地獄のような状況に落とし込まれた人々の過酷な運命を、シリア人難民家族、支援活動家、国境警備隊の青年など複数の視点から描き出した群像劇だ。
本作のメガホンをとるのは、3度のオスカーノミネート歴を持ち、『ソハの地下水道』『太陽と月に背いて』など数々の名作を世に送り出してきたポーランドの巨匠アグニエシュカ・ホランド。
当時のポーランド政府は、この“不都合な真実”を隠すために国境を閉鎖して、情報を遮断したが「国境に行くことができなくても、私は映画を作ることができる。政府が隠そうとしたものを、映画で明かそう」という決意と覚悟のもと、本作の製作に取りかかった。
完成した映画は、世界中の観客に衝撃を与え、2023年ヴェネチア国際映画祭で審査員特別賞を受賞したのをはじめ、数多くの映画賞に輝いた。
世界的な評価の一方で、ポーランド政府は本作上映の妨害工作を行うに至ったが、政府の思惑とは裏腹にポーランドで大ヒットを記録。
その直後にポーランドの右派政権は退陣し、政権交代が行われた。そこで今回は、ポーランド政府や右派勢力の妨害にも屈せずに、表現の自由を守るために戦ったアグニエシュカ・ホランド監督に話を聞いた。
映画の公開時にも妨害があった
――この映画が2023年9月にポーランドで劇場公開されたときに、ポーランド政府がこの映画のことを猛烈に非難し、映画館に対して「この映画は事実と異なる」というPR映像を流すように命じました。ですが、ほとんどの独立系映画館がその命令を拒否したという話を聞きました。ポーランドでは2023年12月に右派政権からの政権交代が行われましたが、独立系映画館がそうした政府の要求にノーを突きつけたというのは、そうした社会情勢とも関係があったのでしょうか?
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