「保存樹木だったケヤキ」はなぜ伐採されたのか 1本の大木が問いかける街づくりに欠けた視点
東洋経済オンライン / 2024年5月4日 12時30分
保存樹木を残す究極の方法はその土地自体を買収するしかない。が、「例えば保存樹木と調和したマンション開発を行うことでより収益を上げられる提案ができるなど、所有者や開発者のメリットを訴えることができれば協力してくれる可能性があるのではないでしょうか」(森田弁護士)。
土地の所有者と開発事業者の合意にもとづき、適正な手続きによって保存樹木が指定を解除され、伐採される。そのプロセスに法的な落ち度はない。しかもケヤキの木1本じゃないか、と言われればそれまでだ。だからといって地域の景観を形成し、住民に親しまれてきた保存樹木が次々に姿を消していく状況を看過してよいものだろうか。
そうした中で、今後地域の開発やまちづくりにおいてカギを握るのが住民による合意形成だろう。森田弁護士も、「住民の意向を反映させたいのであれば、訴訟などを提起するのではなく、事前の計画段階において民主的な合意形成のプロセスを踏むことが望ましい」としている。
都市開発に詳しく、新宿区や渋谷区の景観審議会委員の経験もある東北大学大学院工学研究科の窪田亜矢教授も、「今回の保存樹木制度をめぐる問題は、指定にしても、指定解除にしても、住民が合意形成に関与できるルートを設けることは自治体の政策としてできることです」と指摘する。「ただ、実態としてそうなっていないことが残念です」。
景観や建造物保存に対する意識の違い
欧米では一般的に、都市開発において歴史的に価値のある景観や建造物を保全しようとする意識が高く、住民が合意形成に関与できる仕組みが確立されている。
例えば、ニューヨーク市では1965年に「歴史的環境保全条例」を制定。歴史的保全地区に指定されたエリアで再開発を行う場合、市長の任命と市議会の同意を受けた「歴史的環境保全委員会」が開催され、住民に意見を聞いたうえで保全すべきかどうかを指定する。
ニューヨークには100以上の保全地区エリアがあり、不動産開発などをする場合には、事業者と住民の話し合いがきちんと行われるという。
「本来、開発というのはそれだけの労力が必要なもの。資本主義の父といわれるニューヨークでも、事業者と住民が膨大な時間をかけて都市のあり方を議論するのが、当たり前のこととして受け入れられている」(窪田教授)
一方、「日本の自治体の多くには『開発=まちを発展させてくれるもの』という意識があり、開発事業者に対して一方的に協力・支援する傾向がある。そこでは住民の意見は『開発を妨げるもの』とされるので、結果として開発がブラックボックスのまま進んでしまうのです」(窪田教授)。
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