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藤井聡太に挑戦「豊島九段」が人との練習やめた訳 "孤高の努力家"が「棋聖」獲得までに行ったこと

東洋経済オンライン / 2024年5月8日 12時40分

電王戦の後、すぐにソフトでの研究にのめり込んだわけではない。当時は最先端のソフトは電王戦に出場した棋士にのみ貸し出されていた。それを使って普段の研究に使うのは、他の棋士に対して申し訳ない気がした。

フリーソフトの「Apery(エイプリー)」を使えるようになったことが、ソフトでの研究に踏み切るきっかけになった。自分の判断が正しいとは思っていたが、迷いがなかったわけではない。実戦を一切せずにコンピュータと向き合って、「これでいいのか」と考えることは多かった。

豊島九段は「ジェネラリスト」

糸谷哲郎八段もVSをしていた一人である。「豊島さんは棋士室にずっといたイメージがあるので、来なくなって違和感はありました」。豊島に影響を受けて、ソフトでの研究に絞った若手棋士もいる。

豊島はどんな存在かと糸谷に問うと「年下の天才」と答えた。

「彼はジェネラリストだと思うんですよ。どんな戦型でも指せるし勝てる。将棋って独創派と研究派があって、豊島さんは間違いなく研究派なんですよ。誤解を抱かせると申し訳ないですけど、この戦法で勝ちたいとか、そういうこだわりはあまりないと思う。逆にそういうものは余計なものだと捉えているかもしれないですね。勝つためには、どんな方法でも努力するタイプだと思います」

畠山鎮八段は、奨励会幹事を務めていたとき「この子はあまり厳しく追い込まないほうがいいかもしれない」と思った。

「小5で2級でしたが、将来強くなるなと思っていました。ただ物静かな反面、自分の将棋観が崩れたときにイライラして必要以上にもがいている。そんな脆さがあった」

四段には間違いなくなるだろう。だがA級、タイトルを獲るかという視点で見たときに大丈夫だろうか。「傷ついて将棋との距離を置いてしまったら、普通の棋士になってしまうかもしれない」。そう感じていた。

ソフトがない時代だったら、豊島はもっと早くタイトルを獲っていたと畠山は思う。ソフトとの距離感で悩み、自分を追い込みすぎてしまったのではないか。対局や感想戦の様子を見ていると、「誰を相手に戦っているのだろう」と感じることがあった。

家に籠って研究し続けることは、精神的にもつらい。コミュニケーションのない孤独な作業だ。畠山は、豊島は賭けたのだと言う。

「ソフトという人間よりもミスの少ないものに。もしかしたら、それによって潰れるかもしれない。でも、絶対これで強くなるんだと」

最後にこう言った。

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