国内敵なし、日立「鉄道売上高」今期1兆円超えへ ドーマー副社長インタビューで判明した全軌跡
東洋経済オンライン / 2024年5月13日 6時30分
また、2025年頃の開業を目指す台湾の三鶯(さんいん)線建設プロジェクトでは車両設計をイタリアが行い、日本で製造し、台湾に持ち込むというスタイルを取った。新たな国際分業の形である。
2021年にはタレスから交通システム事業を買収すると発表した。タレスの鉄道信号システムは世界的にも評価が高く、「長年にわたって買収したいと考えていた」。また、「日立は日本、英国、イタリアに強みを持ち、アメリカでも事業を拡大しているが、タレスはカナダ、ラテンアメリカ、サウスアメリカ、フランス、ドイツ、東欧、シンガポールに強い。両者は強力な補完関係にある」とも話す。
では、今後も大型M&Aを重ねて成長を続けるのだろうか。タレスの交通システム事業買収に際しては、EUや英国の規制当局が日立の規模が大きくなりすぎることを懸念して一部事業を売却することを求めた。そう考えると今までのような大型のM&Aは困難かもしれない。ドーマー氏も「中小規模企業の買収を検討している」と話す。
分野的に強化したいのはデジタル関連。日立はIoTプラットフォーム「ルマーダ」を核としたデジタル戦略を進めている。IoT技術を駆使して車両や線路の状態を常時監視することで異常を事前に察知できれば、保守費用が安価になると同時に、運行の安全性も高まる。「たとえば1両に片側2つドアがある車両なら10両編成でドアの数は40。今までは40のドアを毎月点検していたが、ドアにセンサーを付けてデータを蓄積すると、どのドアが動作不良を起こすか事前に察知することができる」。
データ蓄積で優位を築く
もっとも、IoTプラットフォームではシーメンスが先行している。鉄道への活用という点でシーメンスと日立のどちらが優れているのか。この点について尋ねると、「日立が優れていると言いたいね」と笑顔で答えた。その理由は、シーメンスは製造面での活用に注力しているが、日立は顧客の価値向上に力点を置いているからだという。
「直接、鉄道の話ではないのだが」と前置きしたうえで、一例として挙げたのは、英国の公共交通運営会社ファーストグループにEVバスのバッテリー充電マネジメントサービスを提供したことだ。乗客の利用動向、道路状況、天候などによってバッテリーの寿命は大きく変わる。これらのデータを分析してバッテリー性能を最適化し、寿命延長につなげる。「デジタル技術で最も重要なのはメインナレッジ、すなわち業界のことをよく知っているかということだ。デジタル技術はそれを手助けするツールである」。
ということは、データを蓄積すればするほど、次の顧客獲得展開で優位に立てることになる。ドーマー氏が日立に入社した当時、クラス395案件を受注することに無我夢中で、IEPを受注し、M&Aを重ねてここまで大きな存在になるとは夢にも思わなかった。しかし、現在は日立の将来像をしっかりと見据えている。
大坂 直樹:東洋経済 記者
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