なぜ若者は怒られると過剰に反応してしまうのか 上司にとって「怒らない=最適解」になる病理
東洋経済オンライン / 2024年5月15日 6時50分
一度も怒られたことのない割合が近年急増している一因は、管理職研修にもあるだろう。怒る/叱る問題は、実は怒る側の方便にもなってしまう。ハラスメントに類する問題が浮上したとき「怒ったんじゃなくて叱ったんだ」という唯言的な言い訳を許してしまうことにもつながる。だから「疑わしきは禁止せよ」で、一切怒るな、と指導されるそうなのだ。
上司は「会社の代理人」として振る舞っている
みんな上司をやり玉に挙げるのだけど、見過ごされている事実がある。上司は会社の代理人として振る舞っているにすぎないという点だ。チェスター・バーナードという著名な経営学者は「組織人格」という概念を提唱している。組織における人格が、個人の人格とは別に存在するというのだ。
多くの上司は、個人的にどう思うかにかかわらず、会社に命じられて、怒るかどうかを決めている。個人的にはどうでもいいけど組織人として対処することもあるし、個人的には注意すべきだと思ったけど組織人としてスルーした、ということも起きうる。
ちなみに、いわゆる大企業ほどこの傾向は強まるだろう。大企業ほど管理職向けには丁寧に研修をするし(一般論としては、研修など社員教育にリソースを割く企業はよい企業である)、コンプライアンスを気にして強い統制を行っている。
つまり結論としてはにべもないものだけども、会社として揉め事にならないように怒らなくなった、というだけといえばだけなのだ。ところがこうした構造は、上司側からは当然見えているだろうけども、当の若者はそんなことは知るよしもない。
「怒るなんてありえない」という観念の広まり
最近の若者を見ていると、冗談ではなく、怒った人を見たことがないのではないかと思うことがある。怒るのは教育として間違いだという観念が浸透し、ご家庭の方針として怒らないと決めているケースもあるだろう。先生や上司はさらに(組織の事情で)怒らなくなっている。
この経験のなさは危険でもある。「怒り」への免疫がなさすぎるからだ。いくら間違ってるとか悪だとかラベリングしたところで、喜怒哀楽というように「怒」は人間のきわめて基本的な感情である。怒る・怒られることから逃れて生きることは珍しいし難しい。
怒りを排除した教育は、車の一切通らない道で交通マナーを学ぶようなものだ。実際の道路には車がバンバン通るし、車は重大な交通事故の主要因なわけだから、車を排除して交通マナーを学んでも、実践的意味は薄い。
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