ファンド語る「ブラザー工業とのTOB競争」の意義 ローランドDGのMBO、主役の一人がタイヨウCEO
東洋経済オンライン / 2024年5月15日 7時50分
また、そもそも経産省の指針をしっかり理解する必要がある。指針は、株主価値(株主共同の利益)をしっかり検討するように求めているが、企業価値がどうなってもいいとは言っていない。
「両方大事だ」「両方しっかり検討しなさい」というのが経産省の指針で、そこは日本らしさを打ち出したところだと理解している。ローランドDGの取締役会として、企業価値に深刻なダメージを与える懸念を確認するのは当然だ。
――ブライアンさんにはブラザーの対抗TOBがどのように見えていたのでしょうか。
「現金を十分に持っているからいくらでも出せる」とブラザーが考えているように正直感じた。ブラザーに限らず、企業価値を上げることなく現金をただ貯めている大企業は多いが、(十分に現金があるから高い金額でも出せるという)その判断にはリスクがある。
ブラザーがローランドDGに何か悪いことをしようとしているとは全然思っていない。ただ、2つの懸念点があった。
1つ目は、過去にこの2社は両社にとってプラスとなる取り組みを検討したものの、私の知っている限りでは大成功とはいえない結果に終わったこと。2つ目は、ディスシナジーをどうすれば解決できるかについて具体的な返事がなかったことだ。
ブラザーに買収されれば主要サプライヤーとの関係が変わってしまい、ローランドDGの事業の継続性自体に疑問符がつく。またローランドDGの労働組合の調査によれば、9割に近い従業員がブラザーによる買収に反対の意思を示した。社員が逃げてしまう頭脳流出が起こる危険性もあった。
最初の価格がフェアだと思っている
――ブラザーの対抗TOB予告もあって、タイヨウはTOB価格を1株5035円から5370円に引き上げました。
いちばん最初に出した5035円がフェアな価格だと思っている。悪い数字ではなかった。しかしマーケットには競争がある。ブラザーが5200円を提示したことを受けて、タイヨウの投資リスクやローランドDGが抱えることになる負債などのバランスを勘案して改めて価格を出した。
タイヨウとしてはローランドDGの海外展開を一層サポートしていく。ローランドDGの海外売上高比率は約9割。マーケティング戦略にしても本社のある浜松市で練っているだけでは不十分。SKU(商品の最小管理単位)ごとに営業利益がわかるようにするなどの「見える化」も必須だ。
MBO後のイグジット(出口戦略)は完全に決めていない。(かつての親会社で)楽器のローランドと同じように再上場することは考えられる。経営者の賛同のうえでだが戦略的なバイアウトを検討することもあるだろう。
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