日本人が続々スペインサッカークラブを訪ねる訳 「ビジャレアルCF」で活動する指導者の視座
東洋経済オンライン / 2024年5月15日 14時0分
「本を読み、話を聴くと、これはもうこの目で確かめなければと思わせられました」
そう話すのは、今回の25名のひとりであり、一度視察したこともある住田ワタリさん。横浜DeNAベイスターズチーム統括本部チームディベロップメント部に籍を置くチームディベロップメントコーディネーターの役を担う。
「100年先に野球をつなぐ」
ベイスターズは2022年、「クラブはどこに向かえばよいのか?」といった議論を開始した際、テーマをこう掲げた。そのために何をすればいいのか。そのひとつとして、選手やコーチらの成長支援にどう取り組んでいくかという課題が浮かんだ。そこで佐伯さんの本を読んだ住田さんが提案し、チームディベロップメント部部長ら3名で翌年の4月にビジャレアルを訪ねた。
それにしても、野球なのにサッカーの視察でいいのか。行くならメジャー(MLB=メジャーリーグベースボール)では?といった声が幹部から上がらなかったのだろうか。住田さんは言う。
「MLBについては、僕らは多くの情報をすでに得ていました。どのような育成、運営なのかという部分で日本とあまり変わらない点が多く、アメリカから学ぶよりは、欧州のサッカークラブのように地域に根差したクラブから学びたかった。ほかの競技でもよかったんです」
Jリーグでは「親会社の業績や試合の勝敗に左右されないクラブ作り」を目指すところが増えている。プロ野球も同様で、幾人かの球団幹部は「勝ち負けに左右されない球団経営」を口にしている。つまり、勝ち負けに関係なく愛され続けるには地域に根差したクラブでなくてはならない。それは日本のプロ野球も同じだ。住田さんらは、ビジャレアルが地域にどうやって根差しているのか、どんな指導方針なのかを佐伯さんの解説を聞きながら見ていった。
「例えば未就学児に対する指導は、実際に見るとより実感できます。コーチは子どもと必ず目線を合わせるし、3歳児でも判断しなくてはならないメニューをやっていました」
ファンにも伝わるスピリット
練習でも試合でも、クラブで行われていることすべてに理由があった。例えば、合計9面のピッチ、オフィス棟、1育成選手約100名が暮らす寮など立派な施設が並ぶ脇に、古ぼけた黄色い納屋があった。
かつてはロッカールームやシャワールームなどが収まるクラブハウスとして使われていた。ビジャレアル会長の「我々がどこから来たのかを忘れないために取り壊さない」という意見にスタッフも賛同し保存していると聞いた。どんなに繫栄しても初心を忘れるなという意味だ。このスピリットはファンにも伝わっていた。
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