日本人が続々スペインサッカークラブを訪ねる訳 「ビジャレアルCF」で活動する指導者の視座
東洋経済オンライン / 2024年5月15日 14時0分
「コロナ禍でクラブが経済危機に陥ったとき、無観客開催が確実となった2年目のシーズンを前に、ソシオ(クラブ会員)に年間シート販売を打診したところ、1万4000人もの会員が年間シートを更新してくれたと聞きました」
観戦できないかもしれない試合にお金を払う。それは、チームの苦境を考えてのことだ。現地で佐伯さんからこの話を聞いた住田さんは、「僕ら3人は鳥肌が立ちました」と明かす。2週間の欧州視察では4カ国、7クラブとプレミアリーグ本部などを訪ねた。アーセナルなどプレミアリーグの名門にも足を運んだが、丸3日滞在したビジャレアルがやはり最も印象に残ったという。
「クラブのあり方に共感してくれる人がファンになっていました。ファンはクラブの構成員なんだという感覚が人々に浸透していました。創立100年という歴史も感じますが、ビジャレアルには哲学がある。その哲学が地域に根差すには大切なんだと実感しました。ベイスターズも同じような形になってくると素晴らしいなって思います」
住田さんは視察の後、社内での感想会で主にビジャレアルの取り組みを他の職員らとともに発表。さらに、プロ野球団職員ながらジュビロ磐田やJリーグのコーチ講習などに招かれ、サッカー関係者へビジャレアルについて伝え続けた。今年2月には読売ジャイアンツ職員や一軍で活躍した片岡治大U15コーチらも訪れたが、こちらも住田さんが「絶対行くべき」と話したのがきっかけだ。
「指導者には選手の成長支援としての役割があるんですよ、そのために自分の学びの領域を広げていったほうがいいですよねと伝えたいですね。そこに自分の人として、指導者としての自己成長もくっついてくるわけじゃないですか。そうやって学びをどんどん展開させて広めていきたいです。ビジャレアルは世界でも稀なスポーツクラブだと思っています」
迎え入れる佐伯さんによると、今回の視察は「サッカーをひとつの産業としてとらえている姿を見てほしい」と話す。ビジャレアルはセラミックタイルの会社がスポンサーだ。町は19世紀はオレンジ産業、産業の多角化が進んだ20世紀はセラミックタイルの製造が加わった。そして21世紀は3つめの柱としてスポーツ産業を発展させようとしている。
その意味から、ビジャレアルの新スタジアムの名前は、世界的タイルメーカー「パメサ・セラミカ」ではなく「セラミカ(セラミックタイルのスタジアム)」。つまり、産業の名前をつけている。フェルナンド・ロッチ会長の口癖は「一企業のひとり勝ちはありえない」。シェアを争っているばかりでは企業の未来はないとの信念からである。この日本では考えられないような崇高な理想が、実現化されているのだ。
ビジャレアルの強み
ビジャレアルはなぜこんなにも日本人を惹きつけるのだろうか。
この質問に佐伯さんが答えてくれた。
「理論・理屈・綺麗ごとを、日常の現場で応用・実践しているクラブだからなのかもしれません。そして、それらの実践現場をこの目で見てみたいという思いや好奇心が、彼らを突き動かしていることを肌で感じます」
まさに理想を実現する哲学。経営、運営、指導すべてに哲学があるのが、ビジャレアルの強みに違いない。スペインの他クラブからも「ビジャレアルでプレーしたい」「指導したい」といったラブコールが多く寄せられる。そのことは「クラブが本音をさらけ出して、意見をぶつけ合って、自分たちの価値を高める努力をしてきたからだと思います」(佐伯さん)。
スポーツビジネスに限らず、すべての企業ビジネスで大切にしたい本質のようなものが、そこに存在するのかもしれない。
島沢 優子:フリーライター
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