1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

世界の建築にも影響、日本発「メタボリズム」の正体 西洋建築と日本の歴史を通して見えてくるもの

東洋経済オンライン / 2024年5月16日 18時0分

僕も米国では「アメリカ人」として扱ってもらえないなどイヤな思いをしてきましたが、当時はもっと苦しい立場だっただろうと思います。そんな米国で政府や軍の仕事を手がけ、戦後の再開発事業だったプルーイット・アイゴーの設計を託されたミノル・ヤマサキは、僕に言わせれば「建築界の大谷翔平」みたいな存在です。

その手による名作が悲しい最後を迎えてしまったのは残念でなりません。さらに言っておくと、彼は、もっと世界的に有名な建築も手がけています。そのビルは、プルーイット・アイゴーが解体された翌年、1973年にニューヨークで完成しました。

しかし重ね重ね残念なことに、その傑作もいまはもう地上に存在しません。2001年9月11日に発生した同時多発テロで、ハイジャックされた旅客機の突入によって倒壊した世界貿易センター(WTC)です。

あの超高層ツインタワーも、モダニズム建築史に刻まれる独創的な美しさを持っていました。一度ならず二度までも傑作が倒壊の憂き目に遭ってしまったのですから、ミノル・ヤマサキほど「悲劇の建築家」という言葉がふさわしい人はいません。

モダニズムの打開策として登場した新たな概念

一方、モダニズムが行き詰まりを迎えた時期に、日本の建築家たちが新しいムーブメントを起こして世界にインパクトを与えたこともありました。1960年に、日本が初めて「世界デザイン会議」の開催国となったときのことです。

そこで日本は、黒川紀章さんら当時の若手建築家や都市計画家たちが提唱した「メタボリズム」という概念を発表しました。思わずおなかのあたりを気にした中高年読者もいるかもしれませんが、これはべつに、ふっくらした形状の建築を始めようという話ではありません。

メタボリズムとは、「新陳代謝」のこと。社会の変化や人口の増加などに合わせて有機的に成長する都市や建築を目指す運動です。このメタボリズムを具現化した建築のひとつが、黒川紀章さんの設計による中銀カプセルタワービルでした。

完成したのは、1972年。ミノル・ヤマサキのプルーイット・アイゴーが解体された年だったのは、単なる偶然なのでしょうが、なんとなく歴史の因縁のようなものを感じたりもします。

中銀カプセルタワービルは、残念ながら2022年に解体されてしまいました。つまりメタボリズムは西洋建築史の大きな潮流にはならなかったわけです。

世界的な潮流の先駆けでもあったメタボリズム

しかしモダニズムが行き詰まりを見せる中で、非西洋の日本から新しい建築運動が生まれたことには、歴史的な意味があったと思います。というのも、1980年代の初頭に、建築の世界では「クリティカル・リージョナリズム(批判的地域主義)」と呼ばれる考え方が生まれました。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

複数ページをまたぐ記事です

記事の最終ページでミッション達成してください