1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

Z世代を不安にさせるビジネスがなぜ流行るのか 不安に動かされる「われわれ」の社会の病理

東洋経済オンライン / 2024年5月17日 10時40分

なぜこのような「不安ビジネス」が存在し、不安に駆られる若者たちをターゲットにしているのだろうか。

この点を舟津さんは明示的に述べてはいないが、この本を読みながら私が考えたのは、企業の経営者や労働者たちもまた不安だから、ということだった。経営者は失敗すれば責められる、あるいはクビになるかもしれない。そうでなくても、株価が上がらなければやはり批判される。労働者も、業績が悪ければ給料が下がるかもしれない、最悪の場合、会社がつぶれて職を失うかもしれない。

そのような不安に駆られる経営者や労働者が、確実に、かつ環境問題だの人権問題だのを気にすることなくお金を儲けようと思えば、この不安ビジネスはなかなか賢い方法である。別に無理やり生産して環境負荷を高めるでもなく、サプライヤーに無理を言って人権問題を引き起こすわけでもなく、ただ不安を煽れば、顧客がみずから(お金のない若者たちさえも!)お金を払ってくれる。

不安を感じる経営者や労働者にとってこれほどよいビジネスモデルが他にあるだろうか。いや、ない。そしてもちろん、経営者や労働者たちも、若者たちと同様に「根拠のない」不安に駆られている可能性がある。

もし、このような理解が正しいとすれば、われわれが生きているこの社会は、根拠がない(かもしれない)不安に駆られた経営者や労働者たちが、やはり根拠がない(かもしれない)不安に駆られる若者たちをビジネスの種にしている社会ということになる。このような理解は、この本の「Z世代化する社会」というタイトルや、本文における「Z世代はわれわれの――Z世代以外を含む――社会の構造を写し取った存在であり、写像」であるという指摘と奇妙に響き合う。

すなわち、この本が描き出しているのは、不安に動かされる「われわれ」の社会の病理なのである。

このような社会に対して、われわれはどのように対応すればよいのだろうか。言い換えれば、われわれはどのように社会を変えていけばよいのだろうか。舟津さんはいくつかの処方箋を提示している。例えば「余裕を持つこと」「満点人間を目指さないこと」であるが、要するに不安を打ち消すためには、余裕を持って欠点を受け入れる、ということになる。この処方箋の中でとりわけ興味深いのは「理由を探さないこと」である。

つまり、不安に根拠がないのと同様に、信頼にも根拠がない。根拠がなくても自己を信頼し、あるいは他人を信頼すれば、不安を打ち消すことができる。根拠がなくても信頼すればよいのである。

企業とは本来、将来の不安を消すことができる存在

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

複数ページをまたぐ記事です

記事の最終ページでミッション達成してください