戦争を始めた世界のエリートは自国民を守らない ミアシャイマー『大国政治の悲劇』が示す国家の自己保存
東洋経済オンライン / 2024年5月19日 8時0分
あえて戦争があるとすれば、対立の最前線に立つ、弱小国家の代理戦争という名の地域戦争である。だから皮肉なことだが、核戦争の危機をはらんでいた冷戦時代は、二極に覇権国家が対立していたことで、きわめて安定した平和な時代であったということになる。
しかし問題は、冷戦が終わった多極化の時代である。当初は、アメリカ1国の覇権主義が存在し、世界はグローバル化の中で、統一した価値観と国際基準で支配される時代であるかのように見えた。
ところが21世紀になって、アメリカの力は政治、経済、軍事において相対的に低下し、今や多極化時代を迎えている。そして中心を失った世界は不安定な多極化へと進んでいるのである。
多極化時代の危険さ
この多極化時代が、もっとも危険な時代といえる。ミアシャイマーは18世紀以来の世界の戦争史を分析しながら、多極化時代について分析している。国家は多極化時代を生き延びるために、地域の覇権を獲得しようとあらゆる手段をとるからである。
そこで用いられている手段は意味深長である。バック・パッシング(責任転嫁)という手段である。これは、覇権を狙う国家同士が直接対決することを避ける方法で、覇権を狙う国家に対しその近傍の国をそそのかし、代わって戦うようにさせる方法だ。
いわゆる代理戦争である。ウクライナやイスラエルの戦争は、まさにそのバック・パッシングともいえるものだ。
とりわけバック・パッシングを行うことで、相手国を戦争という名の消耗戦に誘い込み、長期化させることで、覇権を狙う国の経済力、軍事力、政治力などを衰退さえ、覇権への願望をくじくことである。そのために、戦争以外の経済制裁などあらゆる手段が使われる。
しかし問題は、今回のウクライナ戦争のように、逆にそそのかされた国を覇権を望む国家が圧倒的兵力で打ち負かしてしまえば、そそのかした国でさえも逆に覇権を失ってしまう可能性があるということである。
これは、諸刃の剣であるということだ。ヤブ蛇という言葉もあるが、まさにヤブをつついて、危険な蛇に襲われる結果となるのだ。
ミアシャイマーは、ウクライナ戦争が起こったころからユーチューブといったネットメディアにさかんに登場してきたが、けっしてマスメディアで評価されることはなかった。
おそらく、それは彼のバック・パッシングといった議論が持つヤブ蛇効果の部分を指摘し、アメリカの好戦的な政府や大手メディアの意向を逆なでしたからであろう。
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