戦争を始めた世界のエリートは自国民を守らない ミアシャイマー『大国政治の悲劇』が示す国家の自己保存
東洋経済オンライン / 2024年5月19日 8時0分
彼はこう語っている。
「多極構造が持つ究極の問題は、国家の誤算が発生しやすい点にある。多極構造は「ライバル国家の決意の強さ」や「相手側の同盟の強さ」などを国家に過少評価させてしまうことが多いからだ。このシステムの中の国家は、自国が敵に意思を強要するだけの軍事力を持っているとか、それが失敗したとしてもとりあえず戦闘で勝つことができると勘違いしてしまいがちなのだ。戦争は、ある国家が違う意見をもつ相手側の固い決意を過小評価した時に発生しやすい。国家がこのような勘違いをしたまま自分の意見を相手におしつけすぎ、そろそろ相手が降参するだろうと思ったときにはすでに不可避になっている、ということだ」(440ページ)
ウクライナ戦争が始まって2年が過ぎ、弱いと思ったロシア、そしてその背後にいるアジア、アフリカ諸国の同盟が意外に強いことにアメリカも気づいたはずだ。なぜアメリカは、このことにもっと早く気づかなかったのか。
そして実は今でも、それに気づいていないふしがある。それは長い間君臨してきた覇権国家が陥る慢心でもある。世界は21世紀になって大きく変わってしまったのである。
そして国家を構成する国民にとって不幸なことに、いずれの戦争においても、一度戦争を始めてしまえば始めた側の国家のエリートたちは国民が何人殺されようと停戦へと動きだすことはないということである。
国家は自己保存のために、国民という生き血を絞り出し、わが身を守るということなのである。この不幸な戦争がこのまま続くのだとすれば、これほど絶望的なことはない。
的場 昭弘:神奈川大学 名誉教授
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