社会保障拡充に協力的な財界と反発する労働組合 子育て支援金をめぐる日本の摩訶不思議な現象
東洋経済オンライン / 2024年5月20日 8時0分
経済学説史を専門とされる京都大学の根井雅弘教授は、『経済学の学び方』の中で思想家としてのJ・S・ミルを論じる箇所で、「わが国では、十倉雅和氏が経団連会長に就任して以来、このような傾向が顕著になった」(126ページ)と論じている。
「このような傾向」とは、経済成長至上主義の呪縛から解放される傾向である。根井教授は、十倉氏が新年メッセージ(2022年)の中で、サステナブルな資本主義、社会的共通資本、持続可能な全世代型社会保障に触れていることを紹介し、「昔の財界首脳からは期待できなかったものである」と論じている。
私も似たようなことを考えていた。かつて経済界が揃って年金保険料の事業主負担から逃れるために基礎年金の財源を消費税に求めていた時代があった。あの頃の経済界では、賃金のサブシステムとして設計されていった今回の支援金制度は実現できなかったと思っている(「基礎年金の税方式化 大半の国民は損に 企業が専ら得をする」『週刊東洋経済』2008年6月7日号)。
支援金に反対する人たちは、労使折半の拠出額を合算した額を示して、負担であることを印象づけてその多さのイメージを与えようとする。だが労使折半の額を足し合わせて示すことは、この国の将来のために労使折半の使用者負担分を協力しようとしている経済界のスタンスを表すには適切ではない。と同時に、支援金制度に協力的な経済界と猛反発する労働界の違いはどこから生まれているのかということも、ついつい考えてしまう(「子育て支援めぐり『連合と野党だけ』猛反発のなぜ」)。
子ども・子育てを支える支援金の話は、元々は、2017年の自民党政調会「人生100年時代の制度設計特命委員会」に提出した次の図から始まった。
高齢期向けの年金、医療、介護保険という、主に人の生涯の高齢期の支出を社会保険の手段で賄っている制度の持続可能性を脅かす最大の要因は少子化である。そこでこれらの制度が、自らの制度における持続可能性、将来の給付水準を高めるために支援金を拠出し、その資金が子ども・子育てを支える。
制度が具体的に設計されていく法制上の手続きの過程で、複数の制度から集めるのを避けるために、介護保険の賦課ベースを包含し、かつ年金からの特別徴収(天引きの仕組み)を持つ医療保険が代表して支援金を集めてこども金庫に拠出して、こども金庫からこども・子育てのために所得を再分配するというふうになっていった。その際、2021年骨太方針に書かれていた「企業を含め社会・経済の参加者全員が連帯」した新たな枠組みを考えていく中で、この国に住む参加者全員が関係している皆保険下の医療保険の賦課・徴収ルートを活用するということに議論は収斂していった。
医療保険の賦課・徴収ルートを活用する意味
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