「京大VS吉田寮生」退去迫られた院生たちの絶望 老朽化を根拠にする大学、大学自治掲げる院生
東洋経済オンライン / 2024年5月22日 11時30分
判決についての感想を率直に語るのは、京都大学大学院教育学研究科の博士課程に在籍している大沼さん(仮名)だ。
被告の1人であり、裁判で弁護士とのやり取りや、寮自治会の意見の取りまとめなど、寮生側の事務局的な役割を務めている。
吉田寮への入寮で、奨学金借りるのをやめた
大沼さんが吉田寮に入寮したのは、文学部の3回生だった2017年4月だ。
実家は熊本県内の農家で、野菜や米が送られてくることはあったものの、基本的に仕送りはなかった。
入学後に京都大学独自の制度で学費の免除が認められたほか、日本学生支援機構(JASSO)から月5万1000円、地元自治体から月2万5000円を借り、家賃や食費などの生活費に充てていた。
もちろん、バイトをしなければ、民間のアパートで生活するには足りない金額だ。それに、奨学金はいずれも将来的に返済しなければならないものだ。大沼さんは寮費が安い吉田寮に入寮することで、奨学金を借りるのをやめることにした。
「奨学金は結局借金で、学部を卒業するまでに300万円近くになってしまいます。まず2回生が終わったタイミングで地元自治体の奨学金を辞退しました。吉田寮に入ったことで、奨学金と同じくらいだった、アパート代が浮くからです。
その後、JASSOの奨学金も4回生の夏でやめています。今冷静に振り返えれば、借りるだけ借りて手をつけないという方法もあったのかもしれませんが、当時の私にとっては借金の額が増えていくことへの拒否感というか、恐怖感もありました。
寮に入りアルバイトをすることで借金を増やさないで済む方法があるならば、それがよいだろうと考えたのです」
しかし、大沼さんが入寮して8カ月が経った2017年12月に、大学側から寮自治会に対して一方的な通告が届く。
老朽化の下で「可能な限り早急に学生の安全確保を実現する」ことが喫緊の課題だとして、新規入寮の停止と全寮生の退去を求めてきた。
2015年に完成したばかりの新棟の入居者にも退去を求めていたことから、寮生は「老朽化」という理由を信じなかった。
2015年まで寮自治会と大学の間で確認されていた確約書では、これまでの補修の有効性を大学側も認めていて、今後の補修も継続して協議することで双方が合意していた。老朽化を理由とした立ち退きは確約書を無視するもので、2017年当時の大学執行部が突然言い出したのだと、寮生側は主張している。
大沼さんは当時のことを振り返りながら、こう語る。
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