伝説のバンドに東大生の私が学んだ「生きる価値」 肩書を取られたら何も残らないちっぽけさを痛感
東洋経済オンライン / 2024年5月26日 11時20分
2009年4月、完済とほぼ同じタイミングで、私は慶應義塾大学に着任した。私の胸は希望でいっぱいだった。ところが、その3カ月後、ギターのアベさんが亡くなった、という悲報が届く。急性硬膜外血腫、要するに脳内出血が理由のようだった。泣きながら「世界の終わり」を聞いていた私は、当時、これからの研究者人生に瞳を輝かせていた。
だが、禍福は糾える縄の如し。アベさんが亡くなったわずか2年後、今度は、私が、急性硬膜下血腫で生死の境をさまようことになったのだ(連載第2回『脳出血で倒れた30代男性、自ら死を願った驚愕理由』参照)。
私の入院中、病院の先生は、連れ合いにこう伝えたそうだ。
「血が止まれば助かります。でも、止まらなければ開頭手術です。亡くなるかもしれませんし、障害が残るかもわかりません。止まるか、止まらないかは、誰にもわかりません」
幸いなことに血は止まった。大きな障害も残らなかった。私はたまたま、本当にたまたま、生かされたのだった。
思えばいつもそうだった。
借金してでも、子どもに学びのチャンスを与える家に、私は生まれた。学業継続の危機にはお金を貸してくれる恩人があらわれた。生と死の際(きわ)にありながらも、かろうじて助かった。どれもこれも私にはコントロールしようのない<運>だった。
こんな詩がある。
いまや太陽は燦々と昇ろうとしている。
まるで昨夜の不幸などなかったかのように!
その不幸は私だけに起こったのだ!
太陽はあまねく世を照らす!
自分の中に闇を包み込んではならない、
それは永遠の光の中に沈められねばならないのだ!
リュッケルト「亡き子をしのぶ歌」より
そう、未来はだれにも予見できない。突然の悲しみにおそわれるかもしれない一方で、明日になれば、想像もできないような幸運が私たちの訪れを待っているかもしれない。
だから思う。私たちは、希望を捨ててはならない、生きる意志を持たなければならない、と。
肩書を失う恐怖を感じることができた「幸運」
だが、自分語りだ、と怒られることを覚悟のうえで、もう一歩だけ話を進めさせてほしい。
明日の幸運を信じ、痛みに耐えぬけるほど、人間は強くない。私は、幸運の訪れを確信できず、頼れるだれかという<依存先>を見つけられずに苦しんでいた。ひとりぼっちだったから、私は絶望し、死と向きあった。
でも、そんな弱くて、無力な私だったが、死を選ぶ前にできることが1つだけあった。それは、苦しみの意味を考え、自分の<態度>を決めることだ。
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