伝説のバンドに東大生の私が学んだ「生きる価値」 肩書を取られたら何も残らないちっぽけさを痛感
東洋経済オンライン / 2024年5月26日 11時20分
私は「東大生」という肩書を失うのが怖かった。でも、その恐怖は、肩書を持っている人間の特権ではないか、と思った。母と叔母が、体を張り、借金取りと戦いながら学びの機会を与えてくれたからこそ、私は"幸運にも"恐怖を感じることができたのだ、と。
私は肩書を失う恐怖をつうじて、2人の愛と苦しみを知った。だから、生きよう、貧しくとも3人で生きていこう、と態度を決めた。そんな私たちを、たまたま待っていたのが、友人による支援という<幸運>だった。
私が若いころとはちがい、さまざまな支援の仕組みができた。家族と苦労を分かち合うのは美談かもしれないが、しなくてよい苦労はすべきではない。いまは、「だれかに頼る」という態度決定だって選択肢の1つだし、むしろその決断は素晴らしいものだ。
だが、大切なのは、いずれにしても、苦しみそのものに意味を見いだし、生きるという選択をするからこそ、私たちは頼れるだれかと出会い、幸せになれる、ということだ。
行きづらさには必ず何かの意味がある
努力は大事だ。運命には逆らえない。そして、苦しみのなかで<態度>を決める覚悟はつらいものだ。命は生きづらさに満ちている。
でも、その生きづらさには、必ず、何かの意味がある。生きて、生きることの意味を考えるからこそ、私たちは自分を取り巻いている<価値>に気づくことができる。
生きるのは苦しいから死ぬ、じゃいけない。苦しいからこそ、生きて、考えよう。生きづらさの意味を。そして触れよう。生きることの価値に。
井手 英策:慶應義塾大学経済学部教授
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