「カスハラ」法整備でもそう簡単に解決しない事情 「お客様は神様」で生きてきた中高年の壁も
東洋経済オンライン / 2024年5月26日 12時30分
しかし、中高年層の危うさは顧客側だけでなく、企業の管理職や上層部にも該当しうることも難しさを物語るポイント。上司が部下に「お客様は神様なんだから、大概のことは我慢するのが当然」という考え方を押し付けて苦しめているというケースが少なくありません。
事実、複数の相談者さんが上司から「あらゆる状況でもカスタマーファーストが前提」「どんなクレームでも業績アップのヒントになるから受け流してはいけない」などと言われて苦しんでいることを明かしてくれました。
ただ、その中高年層を単に断罪するのではなく、理解しておきたい背景があります。それは「学生時代から長年さまざまな我慢を強いられ、犠牲になってきた」「だから今の人も、ある程度、我慢し、犠牲になるのは仕方がないこと」という意識。年齢を重ねてから今さら急に意識を変えることは難しく、個人の尊重や自分らしい生き方が推奨されるようになった世の中に対応しづらい様子が見受けられるのです。
高齢化社会が進む中、行政も企業も昭和から続くこの世代の意識にどう訴えかけていくのか。真剣に考えなければいけない時期ではないでしょうか。
もちろんカスハラは中高年層だけの問題ではありません。たとえば、ある飲食店に務める相談者さんは、「カスハラは高所得層に多い」「肩書や収入に自信がある人ほど上から目線で、穏やかな口調でも理不尽なことを言う」などと言っていました。特に「2020年代に入って以降、社内のパワハラやセクハラに配慮しなければいけなくなった分、酔った勢いもあって外部への人当たりが強くなりがちな人が増えた」という声を聞いたことがあります。
逆に、ある役所に勤める相談者さんは、「カスハラは低所得層に多い」と言っていました。公務員やバス・電車などの交通インフラ関係者などは、一般企業よりも「入場禁止」「提供拒否」などがしづらい環境に置かれています。その相談者さんは「低所得層と思われる人は、拒絶できないこちらの立場をわかったうえで過度な要求をすることがある」と言っていました。
「ダブルハラスメント」に苦しむ人も
ここまで年齢や所得の例をあげてきましたが、あくまで相談者さんから聞いた一部のケースにすぎません。ストレス解消や憂さ晴らしの意味でカスハラする人もいますし、企業側の「注意事項」「お客様へのお願い」などに目を通さず相手に非があると決めつけて怒る人もいます。
これを書いている筆者自身も、無自覚のうちにカスハラをしていたかもしれませんし、ここまで自戒の念を込めて書いてきました。現段階ではカスハラの線引きが曖昧だからこそ、「自分は絶対にしないから大丈夫」という思い込みを捨て、「個人の尊重や自分らしく生きる」という風潮を拡大解釈せず、すべての人が気をつけるくらいの社会になったほうがいいように見えるのです。
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