国立大を「授業料値上げ」に追い込んだ「真犯人」 大学はただ「ピーピー騒いでいるだけ」なのか
東洋経済オンライン / 2024年5月28日 8時0分
本来であれば格差問題の解決に取り組むべきリベラルが、なぜ「新自由主義」を利するような「脱成長」論の罠にはまるのか。「令和の新教養」シリーズなどを大幅加筆し、2020年代の重要テーマを論じた『新自由主義と脱成長をもうやめる』が、このほど上梓された。同書にゲスト参加している古川雄嗣氏が、「大学改革」の視点から新自由主義の問題点を論じる。
日本の研究力を低下させた「大学改革」
中野剛志氏らの新著『新自由主義と脱成長をもうやめる』が、このほど刊行された。
新自由主義がいかに我が国の国力を破壊してきたかを、さまざまな角度から論じるとともに、表面的には新自由主義を批判しているリベラル・左派の言説もまた、その実、かえって新自由主義を後押しするものとなってしまっていることにも批判の射程を広げている。
本書には、私も一部でゲスト参加しているが、そこで私は、新自由主義による90年代以来の「大学改革」こそが、日本の研究力を低下させた最大の原因であることを指摘した。
「改革をやったから、研究力が落ちた」のである。ところが政府は、「研究力が落ちているから、改革が必要だ」という。こんなアベコベは、いいかげんアベスガ政権までで終わらせてほしかったものだ。だから、本書では冒頭、「新自由主義からの脱却」をうたった岸田現総理に対する、政権発足当時の期待も語られている。
もちろん、その期待はみごとに裏切られた。岸田政権下でも、2022年、「稼げる大学」と通称される「国際卓越研究大学」の制度が発足した。大学を「稼げる経営体」に改革せよ、というのだ。
さらに、翌2023年には、これに合わせて国立大学法人法が、なし崩し的に改正。一部の大規模な国立大学に、過半数の学外委員によって組織される最高意思決定機関を置くことを義務づけた。政府の息のかかった人物を委員として送り込み、そこからトップダウンで、大学を効率的に稼げる経営体に改革していこうというわけだ。今後は他の国立大学にも適用されていくことは間違いない。
そして今度は、授業料の値上げである。
今年3月、文部科学省の審議会で、慶應義塾長の伊藤公平委員が、国立大学の授業料を、私立大学と同程度の約150万円まで引き上げることを提案したという。現在の約3倍である。「大学教育の質を上げていくためには、公平な競争環境を整えることが必要」というのが、その理由だ。
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