サンマ漁獲枠を削減でも「獲り放題」の残念な実態 魚が減っていく本当の理由が知られていない
東洋経済オンライン / 2024年5月29日 11時0分
今回の10%の漁獲枠削減で資源管理に対する効果があるのか? 拙記事を読んだマスコミの方々からは「ありませんよね?」と確認されます。残念ながら「ありません」としか答えようがありません。
ただし重要な情報も伝えられました。NPFC委員会関連の報告の中で、資源が減ることにより漁獲量を減らす方式で計算すれば、「枠は7.3万トンになります」という数字が言葉を選びながら出されていました。
つまり、資源が減少した場合に漁獲割合を下げるという、より標準的な規則の一例の計算では、適正な漁獲枠の数量は7.3万トンなのです。これが委員会での「科学勧告」なのです。
資源管理にある程度の知識があれば、昨年の漁獲量が12万トンなのに、資源の減少傾向が続く中で、日本のEEZでの漁獲量も含めて、漁獲枠が22.5万トン。「科学勧告」である7.3万トンの約3倍の枠では、獲り放題のままであり、乱獲を止めることはできないことがはっきりとわかります。資源を回復させるためには7.3万トン以下の漁獲枠設定が不可欠なのです。
北欧のサバでも困難に直面している国別枠の配分
北大西洋のサバの漁獲枠配分をめぐっては、現在でも合意ができておらず配分の難しさを物語っています。もともとはノルウェーとEUが主体で資源管理をしていたサバ。そのサバの回遊経路が変わり、それまでサバを漁獲していなかったアイスランドやグリーンランドでもサバが獲れるようになりました。
またデンマークの自治領であるフェロー諸島が、配分が少ないと言い出し揉めました。そうこうする内に、サバ漁に向けての漁船や加工工場の設備投資が進められてしまい、こうなると後には引けません。このケースと、サンマを対象に中国や台湾などが漁船を建造して後には引けないパターンは類似しているのです。
ただし、大西洋のサバにおいては、各国が自制し3歳未満の未成魚の漁獲はせず、またサバの枠においても過剰なレベルではないので、日本のようにサバの未成魚まで漁獲してしまい資源がなくなるということは起きていません。
国益が絡む国際交渉は非常に難しいです。しかしながら「漁獲枠を10%削減」では効果がなく、「引き続き過剰な漁獲枠」が設定されていて、研究者も非常に懸念している、といった実態に即した報道が不可欠なのです。
マスコミがよく調べずに表面的な内容だけを伝えてしまう悪影響が、取り返しがつかない段階に来ました。かつて大本営発表がどれほど甚大な被害をわが国にもたらしたかは歴史が語っています。「本当のこと」が報道されやすくなる環境が非常に重要なのです。
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