授業サボる学生だった私が教授になって思うこと 「人間が成長する」とはどういうことなのか?
東洋経済オンライン / 2024年6月2日 11時0分
財政社会学者の井手英策さんは、ラ・サール高校→東京大学→東大大学院→慶應義塾大学教授と、絵に描いたようなエリート街道を進んできました。が、その歩みは決して順風満帆だったわけではありません。
貧しい母子家庭に生まれ、母と叔母に育てられた井手さん。勉強机は母が経営するスナックのカウンターでした。井手さんを大学、大学院に行かせるために母と叔母は大きな借金を抱え、その返済をめぐって井手さんは反社会的勢力に連れ去られたこともあります。それらの経験が、井手さんが提唱し、政治の世界で話題になっている「ベーシックサービス」の原点となっています。
勤勉に働き、倹約、貯蓄を行うことで将来の不安に備えるという「自己責任」論がはびこる日本。ただ、「自己責任で生きていくための前提条件である経済成長、所得の増大が困難になり、自己責任の美徳が社会に深刻な分断を生み出し、生きづらい社会を生み出している」と井手さんは指摘します。
「引き裂かれた社会」を変えていくために大事な視点を、井手さんが日常での気づき、実体験をまじえながらつづる連載「Lens―何かにモヤモヤしている人たちへ―」(毎週日曜日配信)。第9回は「生き方の定点観測」です。
最近の学生はとてもしっかりしている
5月はキャンパスに落ち着きが生まれる季節だ。4月になると、「四月病」と揶揄したくなるほど多くの出席者で講義はにぎわうが、ほどなくして「五月病」の季節が訪れ、出席者はそれなりの数に落ち着いていく。
ただ、最近の学生は、とてもしっかりしている。多少の増減はあるものの、基本的に授業の参加者数は安定している。感心させられるが、そんな学生たちを見るにつけ、「不まじめでまじめ」だった自分の大学生時代を思いだす。
「不まじめ」は私のひねくれた性格が原因だ。講義で先生の話を聞けば聞くほど、頭のなかが疑問でいっぱいになった。なんとか理解しようとがんばるが、授業はどんどん進み、気づくと私は置いてきぼりになっていた。
ミクロ経済学の講義だった。先生は授業の最初で「希少な資源を……」と言われた。すると、世の中にはモノがあふれかえっているではないか、と考えはじめ、そこで思考はストップしてしまう。
子どものころ、「あと30年で石油はなくなるのよ、だから無駄使いはやめなさい」と母に言われていたが、大学に入ったら石油の可採年数は45年に増えていた。私の感覚は、経済学の前提と大きく異なっており、そこでまずつまずいた。
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