授業サボる学生だった私が教授になって思うこと 「人間が成長する」とはどういうことなのか?
東洋経済オンライン / 2024年6月2日 11時0分
そんな体験があったから、私は、学生たちに「古典を読みなさい」と言う。
ただ、自分が愉しいと思ったから、では理由にならない。なぜ古典を読まなければならないのか、自分なりに考えたが、どうにもうまく説明できない。「なぜ古典を読むのか」をテーマにした本もあるが、いくら読んでも私にはしっくりとこなかった。
年齢を重ねるごとに大事だと思う場所が違っている
そんなあるとき、依頼された原稿を書かねばならず、シュンペーターの『租税国家の危機』を読み直してみた。若いころからの私のお気に入りで、ページをめくると、何種類もの線が引かれていた。
私にはクセがあって、1度目に読んだときと2度目に読んだときでちがう線を引く。3度目、4度目であれば色を変える。年齢を重ねるごとに本は線だらけになるのだが、大事だと思う場所は違っている。これが「人間が成長する」ということなのだ。私はそう実感した。
思えば、同じような体験は、思春期のころにもあった。
早熟だった私は、成長するとはどういうことなのか、自問していた。身長は黙っていても伸びていたが、そうではなく、心が育つとはどういうことなのかを知りたいと思った。
私は桜が好きだった。ところが、雨で満開の桜が散りはじめたとき、行き交う人たちに踏みつけられた花びらを見て、なんともいえない不快な気持ちになった。
私は、舞い落ちる花びらに眼差しを向けた。すると、少しずつ芽吹きはじめていた、鮮やかな緑色の葉っぱが視界に飛び込んできた。私は、その緑に宇宙のすべてが凝縮されている気がした。葉っぱを通じて自分が宇宙とつながったような、そんな不思議な感覚だった。
桜は何十年ものあいだ、春になると、同じ場所で、同じようにツボミをつけ、花を咲かせる。
この繰り返される自然の単純なリズムに対して、私たち人間の心は絶えず変化する。だから、桜が咲き、散るという見慣れた現象が、突然、まったく違って見えるようになる。
これが心の成長なのだ、これが生きているということなのだ……若い私は世紀の大発見をしたような気持ちになり、1人で興奮していた。シュンペーターを読み返しながら、そんな昔の記憶がよみがえってきた。
古典を通じて成長の足あとを確かめる
古典を読む意味もきっと同じだ。何十年、ときに何百年も昔に書かれた古典の内容は決して変わることがない。いや、不変であるだけでなく、歴史を超える大切な視点があちこちにちりばめられているからこそ、長い期間にわたって人びとから愛され続けている。
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