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嬉野のティーツーリズムに外国人が殺到する理由 栃木も群馬も大失敗、官製富裕層観光の問題点

東洋経済オンライン / 2024年6月5日 9時0分

実は、その出発点は非常にシンプルなものです。「旅館に行ってお茶にお金を払う人はいない。しかし、ちょっとした高級ホテルでコーヒーを飲めば皆が普通に1500円、2000円を支払う。これはおかしいな、と思ったのです」(小原社長)。つまり、2000円のコーヒーがおかしいのではなく、おいしいお茶を無料で提供することがおかしいと思うことから、すべてが変わり始めました。

嘉元氏は社長に就任すると、まず無料で振る舞っていたお茶の提供の仕方を改めました。それだけでなく、レストラン単位でお茶農家との専属契約を結び、テナントとしてお茶農家の本店などを誘致しました。

旅館として生産者である茶農家から安く茶を買って、ただ同然で旅館の利用客に振る舞うのではなく、おいしいお茶を提供する茶農家にパートナーになってもらい、有料でお茶を楽しんでもらうサービスを開始したのです(宿泊客の部屋には追加料金なしで飲めるうれしの茶が置いてあります)。

実際、有料にしてもクレームはないに等しく、むしろ多様な地元の生産者によるお茶を楽しめることで大いに評価が高まりました。

「無料」から「1人1万円以上」が当たり前に

その中でも、2021年に和多屋別荘内に「副島園本店」を構えた生産者のひとりである副島仁さんは、昨年11月から「副島茶寮」で「茶考」という、80分ほどかけてじっくりお茶を楽しむプログラムを開始しています(オンラインによる完全事前予約制)。

その価格は1人5500円です。そこでは、副島園で栽培、加工した5種類のうれしの茶が主役となり、地元の吉田焼などの器に入れて提供されます。茶菓子なども出ますが、それはあくまで引き立て役です。

品種はもちろん、製茶の方法、焙煎、淹(い)れ方などについて、カウンターにいるコンシェルジュによる丁寧な説明を聞きながら、地元の茶農家が手間暇をかけて熟成加工を施し、独自に工夫して抽出したお茶を楽しむのです。80分はあっという間に過ぎてしまうほどです。

また冒頭の写真にあるように、嬉野市街からタクシーで10分ちょっと、2017年に同園の茶畑の中に作った「天茶台」も大人気です。50平方メートルほどの木製の平台を設置して野外茶室に見立て、その台の上で美しい茶畑を望みながら、お茶が振る舞われます。価格は1人当たり1万5000円が基準ですが、外国人富裕層の観光客の予約がひきもきらないのも納得です。

嬉野温泉には、天茶台だけでなく、永尾豊裕園の「杜の茶室」や池田農園の「茶塔」、さらに肥前吉田焼の里にある副千製陶所の一角をリノベーションして造った吉田茶室(唯一の屋内施設)もあります。このように、最高の茶空間での素晴らしい体験がいくつもの場所でできるように設計されているのが同地の「ティーツーリズム」の大きな魅力なのです。

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