生物学者が歳をとってわかった「人生の意味」 人間にとって「自我」こそ唯一無二のものである
東洋経済オンライン / 2024年6月6日 18時0分
生きている以上、いずれ誰もが直面する「死の恐怖」ですが、生物学者の池田清彦氏は、そうした恐怖は、ある「当たり前の事実」に目を向けることで乗り越えられるといいます。70歳を過ぎて池田氏が気づいたその事実とは、いったいどんなものなのでしょうか。
池田氏の著書『「頭がいい」に騙されるな』から、一部抜粋・編集して紹介します。
進化論に基づいた「最適な生き方」を考える
私は大学や大学院で生態学を学んでいた頃から進化論に興味があった。当時の進化論は「ネオダーウィニズム」が主流だった。これは「突然変異と自然選択」を進化の主な要因とする考え方である。
大学院の頃にリチャード・ドーキンスの提唱した「利己的遺伝子」の話を知って、その後に山梨大学で講師として教壇に立ったときも、なんとなく怪しい理論だと思ったけれども、主流の理論なので学生にはドーキンス流の進化論を教えていた。
しかし、しばらく経つと「ネオダーウィニズムは壮大な錯誤体系ではないか」と考えるようになった。
そのときに思いついたのが、スイスの言語学者フェルディナン・ド・ソシュールの提唱した構造主義を生物学に当てはめて、進化論をネオダーウィニズムとはまったく異なるパラダイムに書き換えるということだった。
これは簡単に言うと、「生物の形質を決めるのは個々のDNAというよりも、DNAの発現を司るシステムであり、これは進化史的には恣意的に決まる」という考え方だ。
たとえば人間とチンパンジーはDNAの98.8%が同じで、それなのに外形も能力もまったく異なるのだが、その違いは個々のDNAに起因するのではなく、生物としてのシステムの違いによるものだと考える。
あるいはクジラとウシやカバ、キリンなど偶蹄目との違いもそうだ。DNA解析によると、クジラは偶蹄目のカバと系統的に近く、現在の生物学ではクジラと偶蹄目を同じグループに入れる流れがあるのだけれど、それぞれ身体の形態や機能はまったく違う。
これは進化の過程でシステム上の大きな変化が起こったからだと考えられる。
環境に「合わせる」のではなく、環境を「選ぶ」
つまり、ネオダーウィニズムでは環境に適した突然変異が選択されて、生物が徐々に環境へ適応していったと信じられてきたが、そうではないということ。
クジラは水中での生活に適応するために突然変異と自然選択の繰り返しで今の形態になったのではなく、5000万年前のクジラは4本の足で地上を歩いていたが、脚がなくなってしまったので、仕方なく海に生活の場を求めたという考え方である。
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