西武が「赤坂プリンス跡地」を切り離す戦略的狙い グループ最大資産の売却額は3000億円以上か
東洋経済オンライン / 2024年6月6日 7時20分
「鉄道会社はこれまで、資産を持つことが当たり前のビジネスモデルだった。しかし今後は、資本効率を意識して戦略を変えていく必要がある」。西武鉄道を傘下に持つ西武ホールディングス(HD)の経営企画本部IR部、小川哲生課長はそう語る。
西武は目下、東京・千代田区にある複合施設「東京ガーデンテラス紀尾井町」を売却する交渉を水面下で進めている。大手投資ファンドを含めた国内外の機関投資家や事業会社など複数と折衝しているようだ。
徳川御三家の紀伊徳川と尾張徳川、そして彦根井伊より1字ずつ取って名付けられた紀尾井町。この三家の屋敷があった場所で1955年から2011年まで営業していたのが、「赤プリ」として知られる「グランドプリンスホテル赤坂」だ。ガーデンテラスはその跡地で2016年7月に開業した。
ガーデンテラスは1500億円の帳簿価格
ガーデンテラスはオフィスや住宅を併設し、上層部にはプリンスホテルで最上級ホテルとなる「ザ・プリンスギャラリー東京紀尾井町」が入る。「(不動産事業、ホテル・レジャー事業などの事業用資産として)西武グループにおける最大の物件」(西武の広報担当者)だ。
ガーデンテラスの土地・建物価格は帳簿上で約1500億円。売却価格は3000億円以上になるとの見方もあることから、譲渡した際の売却益は1000億円を超えると予想される。
西武HDの2024年度の純利益は260億円の計画。譲渡が決まり売却益が一括計上されるとしたら、利益インパクトは大きい。西武は2024年度中の物件譲渡を目指している。売却で得た資金で、品川・高輪エリアなどの都心開発や地域活性化に向けた沿線開発、リゾート開発を進める構えだ。
西武がガーデンテラスの売却を急ぐのは、施設の運営が不調なためではない。「赤プリ時代よりも事業利益は上回っている」と、広報担当者は説明する。
実際、ヤフーが2021年に一部退去してもデジタル庁がすぐに入居するなど、オフィスフロアの需要は旺盛だ。2024年5月時点での入居率は、オフィスフロア、商業テナントともに100%である。
ではなぜ、西武グループを象徴するような大規模物件を経営から切り離すのか。それは将来成長を見据えた、経営変革の意思があるからにほかならない。
資産の「保有」から「回転型」へ
多くの鉄道会社がそうであるように、西武も資産の保有を基本前提とするビジネスモデルを踏襲してきた。土地を仕入れて開発し、そこにホテルや賃貸ビルなどを建てて安定収益を得てきた。とくに「プリンスホテル」を中核とするホテル・レジャー領域が事業柱の1つとなっている。
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