「セクシー田中さん」報告書に欠けた"問題の本質" ビジネス視点で俯瞰するとわかる対立構造
東洋経済オンライン / 2024年6月6日 17時16分
映像作品に参加をしたスタッフはその存在をクレジットで明記してもらう根源的な権利があるのです。実際に9話以降のドラマについても降板までは会議に参加してきたうえに、ドラマの世界観は脚本家もコアメンバーのひとりとして一緒に作り上げてきたわけです。
本打ちに参加している他のコアメンバーはクレジットから外されず、立場の弱い脚本家だけ「存在がなかったことになる」のは、脚本家業界全体の利益を考えても抵抗すべきところです。そこで「脚本」ではなく「監修」ないしは「協力」のクレジットで名前を残す方向で交渉が続きます。
しかしクレジットから脚本家の名前を消さないと本編放送や二次利用の許諾をしないという小学館の圧力に最終的に日テレが折れて、第9話のクレジットから脚本家の名前は消えてしまいます。脚本家からみれば実に理不尽な決定が下され、これが後のSNS投稿へとつながります。
さて、ここまでの調査結果から双方の報告書では「再発の防止」という建設的な議論が繰り広げられます。要点としては原作者サイドとドラマ制作者サイドが伝言ゲームではないやり方でコンセンサスを得られるような脚本プロセスが必要であり、かつ納得のいく脚本が仕上がってからドラマの撮影に入るべきだというのです。
そのために双方の報告書が提言していることはコミュニケーションの改善と契約の明確化であり、加えて日テレの報告書は企画から放送までの期間が6カ月というのは短すぎるという改善案です。もっと余裕をもったスケジュールにすべきだというわけです。
これで解決となるのでしょうか。大きな問題があります。そもそもテレビドラマの制作費は年々削られているのです。
上からは少ない予算で作れと言われて、その一方でコアメンバーに9カ月働けという日テレ報告書の改善案は働き方改革的には矛盾です。少ない予算でドラマをつくるためには期間を短くしなければ人件費が製作費の主要な部分を占める映像ビジネスでは予算内にはまとまりません。
③ ビジネス視点から紐解く
このビジネスという3つめの視点により、問題はまったく違ったものに見えてきます。
そもそも漫画をドラマ化するというビジネスでは誰が儲かるのでしょうか? 一義的には出版社が一番大きな利益を得ます。今、漫画のビジネスはIP(Intellectual Property)ビジネスと言われています。漫画の世界では集英社と講談社がこのIPビジネス化で大きく成功していて、長期凋落傾向の出版物ビジネスを大幅に補う形で、IPによる利益が業績を上向けています。
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