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「セクシー田中さん」報告書に欠けた"問題の本質" ビジネス視点で俯瞰するとわかる対立構造

東洋経済オンライン / 2024年6月6日 17時16分

そして実際にドラマ化のプロセスが始まると、関係者はその「大変さ」に巻き込まれていきます。中でも費用に見合わない仕事をさせられたのは原作者と脚本家、そしてドラマ制作会社の演出や助監督ではないでしょうか。一方は原作の世界観を守ろうと漫画を描く時間以外に大きな時間をプロットのチェックに割くことになり、もう一方は限られた予算でよりよいドラマを成立させるために集まって知恵をひねり出します。

浮かび上がる別の対立構造

こう構造を俯瞰するとこの問題は、必死で良いものを生み出そうとしている労働者と、そこから大きな利益を得ようと考えている資本家の対立構造に絵柄を描きかえることができます。小学館と日テレが実は資本家としてひとつのかたまりを構成していて、編集者とプロデューサーはそれぞれ資本家の代理人。原作者と脚本家、制作会社スタッフというクリエイターたちがそれと対立するもうひとつのかたまりという構図です。

そしてこの構図のなかで、資本側の小学館と日テレは「ドラマを成立させたい」という思惑で一致します。出版社は一見、原作者のエージェントの立場であるように見えて、利害関係ではテレビ局寄りの立場をとる力学が生まれるのです。その一方で労働者サイドのよりよいものを作り上げようとする人と人の間が分断されていることで、敵の誤認が起きます。

SNSでの批判では原作者の意図が制作側に伝わっていないことが批判されましたが、実はその逆に日テレのプロデューサーも編集者側に「改変は脚本家だけが提案しているのではなく、チームで考えて案を出している」と伝えています。どちらのメッセージも資本家経由で細いパイプでつながった先にいた労働者にはなぜか伝わりません。

原作者にとっては脚本家が問題だという認識が強まり、最後の最後に降板要請として爆発します。そして脚本家は自分が攻撃されたことに気づきSNSで反撃します。それに対抗する原作者のSNSでのアンサーで、脚本家は壊滅的に炎上します。同じクリエイター同士が、ないしは同じ労働者同士がわかりあえずに戦ってしまったのです。

報告書からはわからないこと

さて最後になりますが、よく国が開示する報告書が黒塗りになっていることがあります。今回の小学館の報告書には黒塗りではありませんが、意図的なのか多くを調べていない箇所があります。今年1月26日に原作者がXに「アンサー」を投稿し、脚本家への非難が集中した直後の部分です。

翌27日に原作者と小学館関係者の間でオンライン会議があり、その後、編集者と原作者が何らかの話をしたことがわかります。その後、原作者から「思いは果たしたので、予期していなかった個人攻撃となったことを詫びるコメントを出して、投稿を取り下げる」と編集者は伝えられたと証言しています。

この一日の間に何が話し合われたのか具体的な内容が報告書には書かれていません。そして翌28日、状況は暗転します。原作者はXに「攻撃したかったわけじゃなくて。ごめんなさい」と投稿し、ブログ、Xの投稿を削除して自死します。

死の前に原作者は何に気づいたのでしょうか。関係者から何を教えられたのでしょうか。誰になぜ謝罪をしたのでしょうか。その部分については調査は尽くされていません。

鈴木 貴博:経済評論家、百年コンサルティング代表

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