植民と移民の対立こそアメリカ大統領選の争点だ アメリカ社会の価値「寛容さ」は残るのか
東洋経済オンライン / 2024年6月8日 8時0分
アメリカには1つの神話がある。17世紀、アメリカに植民しようと帆船メイフラワー号に乗ったイギリス人は、イギリスで果たせない夢を持ってアメリカにやってきたのだとされる。それは自由と平等の実現だった。当時のイギリスを見ると、いまだ絶対王制の国家であった。
イギリスで1649年に清教徒(ピューリタン)革命が起こり、トマス・ホッブズが1651年に『リヴァイアサン』を書いた頃だ。時代は急激に変化していた。それは、王政支配への疑義が提出されたからである。
重要なのは、国家ではなく、個人であるという思想こそ、この革命の原因でもあった。個人を守るために国家が必要なのであり、個人は国家を構成する単なる構成員ではないという主張だ。
国家は、個人が自らを守るために要請されたのであり、国家がその成員である個人を生み出したのではないということである。
王政国家は、長い間「王権神授説」によって守られ、家族の延長線上の大家族として家族の上に君臨し、その家長こそ国王であった。大家族を構成する国民は、国王の自由になる単なる構成員、単なる臣民にすぎなかった。
一方、新大陸アメリカには国家はなく、個人が自らの契約で国家をつくることができたのだ。だからこそこの国家にはイギリスの持っている垢、すなわち不平等や不自由はなかった。
こうしてアメリカは18世紀の末にイギリスからの独立を勝ち得、自由と平等の国家をつくったというわけである。
もしこの神話が正しければ、この国家は自由と平等を求めてくる個人のつくりあげる、ルソーのいう社会契約による国家となるはずである。
もしそうだとすれば、アメリカは今後もずっと個人を契約によってアメリカ以外から受け入れ、自由な国家として存続すべきである。
19世紀後半以降のアメリカ移民
しかし、それはあくまで理念であり、現実の歴史とは違う。今われわれが見るアメリカは19世紀後半以降のアメリカなのかもしれない。19世紀になって、すでに18世紀に国家として形成されたアメリカに大量の移民が来る。
移民はイギリスからではなく、ドイツをはじめとする他のヨーロッパ地域の出身者だった。その波はやがて東欧や南欧、そしてさらにはアジアや中南米、中東諸国へと広がっていく。
そうなると、すでにいた者と新参者の移民との摩擦が起きる。宗教、言語、文化、あらゆる問題で先に来たものと後から来るものとの衝突が起こる。しかし、アメリカは先にイギリスの宗教、言語、文化を持っていた集団が基礎を築いていたがゆえに、移民はこれに同化せざるをえなかった。
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