植民と移民の対立こそアメリカ大統領選の争点だ アメリカ社会の価値「寛容さ」は残るのか
東洋経済オンライン / 2024年6月8日 8時0分
もはや、それぞれの移民が勝手な国家をアメリカに建設するなどという自由など、すでになかったのだ。アメリカの国家も国土も、ほぼ19世紀後半までに完成していたのである。
同化しにくい移民(非西欧人)に対しては、移民排斥が何度か執行された。ニューヨーク・自由の女神の脇にあるエリス島の移民博物館には、「自由の国アメリカにようこそ」と書かれてはいるが、個人が自由に生きる余地は残されてはいなかった。
こうしてアメリカには、19世紀後半以降、アングロサクソン的アメリカ人と、そうでない移民者との大きな分裂が生じた。
しかしアメリカは、移民者を同化させることと豊かさを実現させることによって、国内の対立(例えば南北戦争)をなんとか切り抜け、21世紀まで自由と平等の大地としての役割を担ってきた。
しかし、今や3億人を超す人口と経済的停滞、そして移民の増大によって豊かさを実現できない国家となり、内部不和を抱えるようになってくる。
アラン・ブルームとサミュエル・ハンチントン
この問題をアメリカの分裂としてとらえたのが、サミュエル・ハンチントンの『分断されるアメリカ-ナショナル・アイデンティティの危機』鈴木主税訳、集英社、2004年)だ。
彼は、アメリカの信条をこう述べる。
「17世紀と18世紀にアメリカに入植してこの国を築いた人たちの、アングロ・プロテスタント独自の文化の産物だった。その文化の主たる要素には、英語、キリスト教、信心深さ、法の支配に関するイングランドの概念、支配者の責任、個人の権利、非国境派プロテスタントの個人主義の価値観、勤労を善とする労働倫理、人間には地上の楽園である『山の上の町』(マタイ伝第五章14節)をつくりだす能力と義務があるという信念が含まれていた」(12ページ)
そしてこの信条を取り戻すことこそ、分断したアメリカを取り戻すための方法だと主張する。
アメリカはまったく自由に開かれた国ではなく、アングロサクソンの伝統に刻印された国だったのだというのだ。植民と移民とは違う。移民は植民がつくりあげたものに従うべき、すなわち同化すべきなのだというのだ。
しかし一方、増え続ける移民、それもスペイン語圏からの移民の無限の増大は、スペイン語の公用語化の要求を含め、ありとあらゆるアングロサクソン流の信条への脅威を生み出している。
アングロサクソンの信条が、ホッブズ、ジョン・ロック、ルソーにつながる、個人の契約による新国家の基礎にあるというのであれば、それはアングロサクソン流ではなく、文明社会の普遍的価値基準(これはこれで問題であるが)だということになろう。
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