経済制裁が利かない?懐深いロシア経済のリアル 穏やかな日常生活、制裁でも世界とつながる経済
東洋経済オンライン / 2024年6月8日 8時0分
家計の状況を見ると、ロシア経済の懐の深さがより明確になってくる。
ロシアは人口1億4600万人(世界9位)であり、大きな消費市場を持っている。そして、この消費市場は戦時下、制裁下にあっても相当に底堅い。
小売売上高は、2022年こそ対前年比6.5%減少したが、2023年には同8.0%増加した。個人向けサービス売上高に至っては、2年続けて増加(それぞれ対前年比5.0%、4.4%)している。
再び前述の部門別付加価値額統計を見てみると、「旅行業および関連サービス業」が2年続けて増加(同4.3%、19.2%)している。2022年には、「スポーツ・休養・娯楽」(同7.7%)や「ホテル・飲食業」(同4.3%)も大きな伸びを記録していた。
国内旅行を楽しむロシア国民
2024年4月に訪れたウラジオストク空港の国内線出発ロビーは、4年前と比べて売店やカフェの数が増えていた。
国外旅行の代わりに極東方面への観光旅行に出かける動きはコロナ禍の時期からあったが、対ロシア制裁によって国際航空路線が大幅に減少したことからその勢いが増したとのことだ。
日本製品専門店や韓国製品専門店もあり、モスクワなどから来た観光客が帰路に空港でこうしたお土産を買っていくのだろう。
堅調な消費を支えているのは、家計収入の伸びである。月次の実質賃金動向を見ると、2022年10月以降、対前年同月比でプラスとなる月が続いている。
とくに、2023年4月からの3カ月は連続して対前年同月比10%以上の大幅な増加となった。名目賃金は、2年続けて対前年比14.1%もの増加を記録した。その背景には労働市場の逼迫がある。
失業率は、2022年2月のウクライナ侵攻開始時点ですでにコロナ禍前を下回る水準となっていたが、その後も低下傾向が続き、2024年3月時点で2.7%にまで低下した。この間に雇用者数は120万人増加した。
ウラジオストクやハバロフスクでは、若者が高給を求めてモスクワなどに出ていってしまうという恨み節も聞いた。労働者の流動性の高さが賃金上昇を加速しているという面もありそうだ。
こうした中で注目したいのは、インフレ動向である。消費者物価上昇率は2022年に11.9%を記録した後、2023年には7.4%に低下し、ロシアにとっての「普通のインフレ」水準に落ち着いている。
しかしながら、ロシア国民には根強い「インフレ懸念(インフレ期待)」がある。経験則として、ルーブル安がインフレに直結するという記憶が染みついているため、少しでもその気配があると国民が自衛策に走り、インフレが自己実現する素地がある。
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