北朝鮮の金正恩氏にはやはり息子がいないのか 韓国・文在寅前大統領の回顧録からみる家族構成
東洋経済オンライン / 2024年6月11日 13時0分
しかしその4年半後、金正恩党総書記は2018年春の非核化への思いとは正反対の姿勢を示した。
金正恩党総書記は2022年11月18日、新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17」の発射実験を現地指導した。このICBMは意図的に角度を高くして飛距離を抑えるロフテッド軌道で発射され、最大高度6040.9キロまで上昇し、飛距離999.2キロ、4135秒(1時間8分55秒)飛行した。速度はマッハ22だった。
「火星17」は長さ23~24メートルにもなる世界最大規模のICBMで、韓国では「怪物ICBM」と呼ばれていた。通常角度で発射すれば飛距離は1万5000キロメートルを超えるとみられた。
金正恩党総書記はこの「怪物ICBM」を「愛するお子様や女史」とともに発射場に出向き「試射の全過程を直接指導された」のである。これが金正恩党総書記の娘「ジュエ」のデビューであった。
当時、なぜ金正恩党総書記がICBM発射に娘を同伴したのかが話題になった。これに回答したのが2日後の党機関紙『労働新聞』であった。同紙1面すべてを使い「朝鮮労働党の厳粛な宣言」と題した長文の「政論」を掲載した。この「政論」では繰り返し「子ども」が強調された。
「政論」は「火星17」の発射をわが子と共にテレビで見たという女性の、「われわれの子どもたちが永遠に戦争を知らず、晴れた青い空の下で生きるようになったのだから、どんなに感激的なことでしょうか」という発言を紹介し、発射実験成功は未来世代まで平和を守る意義がある、とした。
さらに「火星17」の発射は「愛する人民の尊厳と運命を踏みにじり、われわれの子どもたちの明るい笑顔を奪おうとする敵対勢力に対する憎悪」の発露であり「人民の限りない幸福、後代の明るい笑みのため」であったことを強調した。
つまり、北朝鮮の核・ミサイルは「後の世代を守る」ためのものであるとした。この「後の世代」の「アイコン」として「ジュエ」が登場したのであった。
4年で正反対の姿勢に
金正恩党総書記は2018年春には「後の世代まで核を持たせたくない」と言っていたが、4年後の2022年秋には「核が後の世代を守る」と180度反対になってしまった。
その原因は2019年2月のハノイでの2回目の米朝首脳会談が完全な決裂に終わったことであろう。
すべてを自分の思いのままにする唯一的領導体系という個人独裁を確立した金正恩党総書記は、ハノイの米朝首脳会談の失敗で人生最大の挫折を味わった。それは最高指導者の権威を失墜させかねないものであった。
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