何光年も離れた「恒星への旅」は実現可能なのか NASAの専門家が本気で考えた星間旅行の課題
東洋経済オンライン / 2024年6月14日 14時0分
1977年に打ち上げられたボイジャー宇宙船は、これまでに最も遠方まで到達した宇宙船だ。ボイジャー1号は、本書執筆の時点で、約156天文単位(au)の距離――地球と太陽の距離、約1億5000万キロメートルの156倍――にあるが、そこまで行くのに44年以上かかっている。
ボイジャーの位置に関する最新情報は、NASAのウェブサイト、https://voyager.jpl.nasa.gov/mission/status/を確認していただきたい。ボイジャーが正しい方向に進んでいたとしたら、プロキシマ・ケンタウリに辿り着くまでに約7万年かかると推定される。
本当に実施するのなら、星間旅行の期間は、年単位ではなく、千年単位で測れる長さでなければならないだろう。でないと実施可能とは言えまい。
難しい課題が山積みだが
宇宙船の推進手段の選定以外にも、星間旅行を巡る難しい課題はたくさんある。星間旅行をする宇宙船が、そんな途方もない距離を越えて通信するにはどうすればいいだろう? どの恒星からも遠く離れて星間空間を進んでいく宇宙船に、どうやって動力を供給すればいいのだろう?
さらに、所要時間を短くするために必要な速度で進むあいだに、星間ダストと衝突して船体が損傷するリスクも大きいはずだ。光速にかなり近い猛烈なスピードで進んでいるときには、小さなダストでも衝突すれば大惨事を引き起こしかねない。
ありがたいことに、これまでとは違う新しい物理学を準備しなくても、自然は人類に超高速星間旅行を実行させてくれるようだ。
核融合を使った原子力推進、反物質推進、そしてレーザー推進のいずれの方式に基づいた推進技術も、物理的に可能なようである――とはいえ、必要な規模のシステムの設計は、今の私たちの能力ではとうていできそうにないが。
人類が星間旅行という究極の旅に本当に出発するのなら、まずは太陽系の至るところに人類が居住しなければならない。それが達成できても、星間旅行を実施するにはさらに、新しいさまざまな技術が必要だし、過去の過ちを繰り返さないための探査倫理の枠組みも新たに構築しなければならない。
そして、かつてヨーロッパの大聖堂の建築を可能にした、未来を見通す思考力が必要だ。なにしろ、今始まるプロジェクトには、それが何世代も先まで完了しないことを踏まえた大局的な思考が求められるのだから。
なぜ宇宙を探査するのか?
それに加えて、「なぜ?」という疑問がある。「私たちはなぜ遠くの恒星まで旅しなければならないのか?」だ。さらに言えば、それは「そもそも私たちはなぜ宇宙を探査しなければならないのか?」という疑問でもある。
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