「りんご」の鉄瓶が伝統工芸の世界にもたらす新風 大学やスタートアップと連携しAI活用も模索
東洋経済オンライン / 2024年6月14日 12時0分
20~50代の職人を雇用し鉄瓶を製造するほか、商品を手に取れるカフェや店舗の経営も手掛ける。
「歴史のある工芸を今の社会の中に取り戻したい」、その思いが原動力だという田山さん。
手づくりの南部鉄器は、高価格で手に取られにくいという課題と、高齢化が進む中で若い職人を育成しなければいけないという2つの課題がある。
田山さんは両課題を同時に解決する「あかいりんご」と名付けたプロジェクトで、比較的リーズナブルな4万円台の鉄瓶を実現させた。持続可能な伝統工芸のモデルとして評価され、革新的な工芸の担い手に贈られる「三井ゴールデン匠賞」を受賞するなど注目を集めている。
営業職からUターンし南部鉄器職人に
田山さんの父・和康さんは「現代の名工」にも選ばれた南部鉄器職人で、中学卒業直後から定年退職するまでの約50年間、盛岡市内で江戸時代から続く老舗工房に勤め上げた。
また祖父もユネスコの無形文化遺産にも登録されている郷土芸能の「早池峰神楽」で長老を務めるなど、伝統を重んじる家系で育った。
一方、田山さんは高校卒業後に上京し、首都圏の大学と大学院でバイオを学んだ後、都内の大手健康食品メーカーに就職。営業職として全国を飛び回る日々を送った。
生まれ育った盛岡では、街なかにいくつもの南部鉄器工房があり、盛岡の人たちには身近な存在だったが、東京で生活してみると、同世代の若者は誰も南部鉄器を知らないことに衝撃を受けた。
南部鉄器とは無縁の20代を送っていたが、東日本大震災をきっかけに、「自分にしかできないことをしたい」と思うように。それまでのキャリアや生い立ちの棚卸しをしたことで、父がその道を追求してきた南部鉄器や、祖父が継いできた郷土芸能などへの思いを新たにしたという。
「自分の中には地域の伝統文化が根づいていることに気がつきました。南部鉄器の技術を身に付け、そこに会社員として培った営業のスキルがあれば、自分にしかできない形で南部鉄器の世界で新しいことを起こせると思ったんです」
鉄器づくり100の工程を検証
「悔しさ」も原動力だったと田山さんは振り返る。
「父は高い技術のある職人として評価されていましたが、それでも決して経済的に裕福だったわけではありません。南部鉄器がもっと稼げる産業になるためには、自分がチャレンジして南部鉄器業界を変えてやる、そう思っていました。当時は『南部鉄器業界をぶっ壊す』なんて息巻いていましたね」
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