「りんご」の鉄瓶が伝統工芸の世界にもたらす新風 大学やスタートアップと連携しAI活用も模索
東洋経済オンライン / 2024年6月14日 12時0分
2012年にUターンし、定年退職し独立していた和康さんに師事した。当初から課題として念頭にあったのは、深刻化する職人不足だ。長引く不況で職人の成り手は減少。海外で南部鉄器が注目され、輸出は伸び始めていたのに人手が足りず、生産が追い付かない事態になっていた。
南部鉄器の世界は、ひとつの鉄瓶を仕上げるまでに全部で約100の工程があり、「10年修行してやっと一人前」と言われてきた。
和康さんが全工程に携わるまで30年かかったと聞いていた田山さんは、まずは自身が一人前の職人になることを目指しつつ、制作に必要な全工程を把握したうえで、育成にかかる時間やそれ以外のコスト、ボトルネックになりがちな工程などを検証することにした。
それには和康さんが「教え好き」で技術を言語化することに長けていたのが幸いした。結果、田山さんは自ら実験台となり、職人に必要な技術の全体像を短期間で理解していった。
その体験を通し、「現代の名工」にも選ばれた父のような熟練の技や美的センスが必要な工程もあれば、比較的習得しやすい工程もあることに気づいたという。
若い職人を育てるシステム
田山さんは2013年に自身の会社・タヤマスタジオを立ち上げ、南部鉄瓶の製造・販売を行うブランド「kanakeno」をスタートさせた。
当初は鉄瓶のラインナップを2種類に絞り込んだ一方で、若い世代に南部鉄器を知ってもらう市民講座「てつびんの学校」を盛岡や東京で開催。鉄瓶の歴史や制作方法、鉄瓶で沸かした白湯の味を伝えた。
その取り組みが功を奏し、2017年に6万円台、2018年に8万円台(金額はいずれも当時)で発売した商品は「てつびんの学校」やイベントで実際に触れた人たちからの注文が相次ぎヒット作となった。
しかし田山さんには、もっとたくさんの人に身近な商品として届いてほしい、という課題感が残ったという。
その課題から生まれたのが「あかいりんご」のプロジェクトだ。
経験の浅い職人が一つの鉄瓶を作るのに必要な技法を身に付けながら、最初の鋳型作りから仕上げの着色までを1人で担当することでコストを削減。職人育成と低価格の実現を兼ね備えた画期的な仕組みを作り上げた。
多くの工房では、各工程を習得してから次の工程に進むのが一般的。しかし田山さんはそのやり方は今の若者の感覚や働き方改革が進む時代性に適していないと判断した。
「鉄瓶づくりの全体感を把握し、なぜその工程が必要なのかを身をもって体験しながら習得するほうが、今の若い世代の志向に合っている」と言う。
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