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精神科医が「自分が病みそうになった時」の対処法 発した言葉が意図せず患者を傷つけることも…

東洋経済オンライン / 2024年6月14日 18時0分

我々精神科医の診療は、精神科医として患者の前に立って行う言動のすべてに、患者にメスを入れるという側面があり、外科手術と違ってどうやっても何百人か何千人かに一人はおそらく変なところを切ってしまう。これはたぶん防ぐことができないことなので、そういう危ないことをしている因果などうしようもない存在であるということを認識した上で、それでもメスを握るしかないわけである。

外科医も時々切ってはいけない血管を切る、などと発言したらこれは大事だが、精神科医の場合は、間違えて切ったところで目に見えて肉体が死ぬわけではないので、切ってはいけない心の血管を切り患者の心が死ぬことに対して、幾分過小評価されているところがあるような気がする。

医師というのは自分を正常な位置において、そこから患者さんの病理を評価することが基本的な態度となっているわけだが、ときに医師という白衣が脱げて人間になる瞬間がどうしても出てくる。人間は人間の言うことに左右されるので、医師であっても揺れ動く存在になることは当然あって、つまり咄嗟(とっさ)に腹が立って変な血管を切ることだってありうるだろう。

人間として対峙することにはこのような危険が常にあるが、心を相手にするときは、やはり白衣を着っぱなしだとそれ以上理解が進まないことはあり、ただ白衣を脱ぎっぱなしだとただの素人芸になってしまう部分もある。なのでジャケットダンスをするように着たり脱いだりするのがひとまずの折衷案になるのかなと思う。

ちなみにジャケットダンスの例を出すときに私の脳内には郷ひろみとJO1 が浮かんだが、どちらも別の意味で読者全員がイメージできるアーティストではないと思ったので口をつぐんだ。つもりだったのに喋っている。

多くの医師がとる戦略

一方で、医師が自らの心を守るためには、ジャケットダンスのような七面倒臭いことはさっさとやめて、白衣を2枚着る、白衣の下にケーシー(ググってみてください)を着る、スクラブ(ググってみてください)を着る、みたいなことをすれば良いし、多くの医師はむしろこちらの戦略をとることのほうが多いのではないか。

医師も人間であって、現場でやりとりをしていると傷つくことが頻繁にある。精神科医が一般の人に聞かれやすい質問第一位はおそらく今も昔も「そういう人たちの話を聞いていて、自分が病んでしまうってことはないんですか?」だが、まさにそういう話である。

この質問に対してはいつも適当に答えてきたなと思うのだが、その適当な答えを思い出してみると、「まあ話きいて病むような人はあんまり精神科選ばないかもね」とか「慣れた精神科医は同じ人間という距離感で接するんじゃなくて、『病気を診察する』という感覚だから、何言われても傷つかないよ」といったことを大抵は言っているなと思い出す。つまり白衣が脱げて人間が見えてしまい、傷ついたり傷つけたりするような状況はプロじゃないよ、みたいなことを自ら言っているのである。

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