心臓外科医が説く「手術に向き合う」心の整え方 「ゾーンに入る」ことを期待してはいけない
東洋経済オンライン / 2024年6月16日 19時0分
ほんのわずかなミスが患者の生死に直結しかねない心臓外科医。そんな心臓外科医として、14年連続で「The Best Doctors in Japan」に選出されている渡邊剛氏には、つねに安定した高いパフォーマンスを発揮するために意識していることがあるといいます。世界初となる、心臓の「完全内視鏡下手術」を成功させた経験もある渡邊氏が実践する「心の整え方」とは、いったいどんなものなのでしょうか。
*本稿は渡邊氏の著書『心を安定させる方法』から、一部抜粋・編集してお届けします。
心臓手術に必要なのは「フラット」なメンタル
時間が止まったかのような、研ぎ澄まされた感覚を得ることを「ゾーンに入った」と言うそうです。
世界的なハードル選手だった為末大さんは、認知心理学者の下條信輔さんとの共著『自分を超える心とからだの使い方』(朝日新聞出版)のなかで、「ゾーンに入った」経験は人生でたった3度だけとおっしゃっています。
ゾーンに関する話題は、漫画やアニメの世界でも描かれることが多く、周りの人たちの動きが止まって見えるなか、主人公だけ動けているシーンや、周囲の音が一切消えて、自分の世界だけが描かれている場面を目にしたことがある方もいると思います。
心臓外科医である私にも、「手術をしているときの感覚も同じですか」と、取材をしてくださる記者の方から聞かれることがよくあります。
そんなわけがありません。
もし、あなたが患者として、私に心臓手術の執刀を託してくださったとしましょう。日によって驚くほどの実力を発揮することもあれば、そうでもない手術をすることもある心臓外科医。こんなパフォーマンスに波のある外科医に、自分の命運を賭けたいと思いますか?
少なくとも、私が患者なら嫌です。
心臓外科医にとって、何よりも大切なのは「メンタルフラット」であること。緊張しすぎず、いつもどおり、練習でやってきたことを本番でも再現することに意識を向けます。そして、もし何か最初の想定とは違うことが起きたとしても対応できるように、スタッフからの声が聞こえるくらいの深さの集中をもって、患者さんと向き合います。
毎回ゾーンに入れるのであればいざ知らず、為末さんでさえ、生涯において経験されたのはわずか3回だけです。そんな奇跡のような状態を引き出そうとするよりも、実力をしっかり発揮できる力を身につけるほうが、価値があると思います。
では、仕事においてパフォーマンスにムラがある人と、パフォーマンスの波が少ない人で比べた場合、どちらに仕事を任せたいと思うでしょうか。
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