富士急が買収「西武の遊覧船」小田急にどう対抗? 2人の人気鉄道デザイナーが芦ノ湖で「競演」
東洋経済オンライン / 2024年6月17日 7時30分
富士急側と議論を重ねたが結論がなかなか出なかったある日、川西氏が堀内光一郎社長と食事する機会があった。「そらかぜのプロジェクトは進んでいますか」と尋ねる堀内社長に、川西氏は「大丈夫です」と太鼓判を押した後、「1点だけ」と続けた。
「人工芝の繊維が湖に流れてしまうのは避けるべきです。地域のみなさんは、富士急さんを見ていますよ」
堀内社長もこの考えに賛同した。そらかぜを通じて富士急は自然を大切にする会社だというメッセージを発信できる。
早朝には、乗務員たちが芝や蔦に水を撒いている様子を見ることができる。通常の船ではありえない光景。これが乗客をわくわくさせる。「富士急には遊園地の精神がある。それは客の感動なしに会社の成長はないということ。手間がかかることはやらないという会社ではない」と川西氏は話す。
こうして完成したそらかぜが今年2月に就航した。客室内は、靴を脱いで大きな窓越しに操舵室を見ることができるキッズスペースや畳を敷いた小上がりスペース、ハンギングチェア、赤富士をイメージしたソファーなどさまざまな席を配置した。間取りをゆったりと取った分、定員は700人から550人へと変更された。
船外は3階デッキには天然芝を敷き詰めたエリアだけでなく、ブランコがあり、4階デッキには玉砂利デザインの飛び石などが配置されている。まさに「湖に浮かぶ緑の公園」である。
箱根エリアへさらなる投資は?
外観は赤い水引風のラインが入っている程度で、あまり手を加えていない。「芦ノ湖には船のペンキ1滴もこぼすことは許されない」と川西氏。せっかくのリニューアルなのだから外観を大胆に変えてもよかったのだろうが、川西氏と富士急は自然保護を優先した。
「改造にかかった総費用は2億円」と川西氏が明かす。海賊船の建造費と比べると数分の1だが、それは船舶を新造したか、既存船を改造したかの違いである。実は富士急はほかにも箱根エリアに対する投資を行っている。遊覧船事業の買収に先立つ2022年2月、箱根と熱海の中間に位置する十国峠のケーブルカーとレストハウスを西武グループから取得した。
富士急はグループ内のアウトドア運営会社と連携し、十国峠の山頂にグランピング施設を2023年4月にオープンさせた。山頂だけあって目の前には富士山から駿河湾まで360度の大自然パノラマが広がる。山頂を視察した堀内社長が「この景色をもっと活用すべきだ」として、グランピング施設の設置が決まったという。宿泊施設は建設したのではなく、下部に車輪が付いたトレーラーハウスを置いているだけなので、自然への配慮がなされている。
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