宇宙旅行で「低重力」が人体に与える深刻な影響 生命を維持するための「星間宇宙船」の設計
東洋経済オンライン / 2024年6月21日 15時20分
人間は低重力下で生きるようにはできておらず、宇宙旅行者に低重力が及ぼす影響についてはさまざまな研究が行われており、十分な量のデータが蓄積されている。
無重力や微小重力に初めて曝されると、多くの人は、めまい、方向感覚喪失、吐き気、そして嘔吐を経験する。
人体の内耳にある前庭神経系は、視覚や聴覚などの知覚と連動して、平衡感覚の維持を助けるほか、上下を区別したり、自分が動いている速度がどの程度かを感知するなどの機能に寄与している。
綱渡り、バレエ、アイススケートなど、感覚系統系が完璧に統合されていなければうまくできない曲芸や舞踏、スポーツなどができるのも、前庭神経系のおかげだ。
前庭はそのなかでも鍵となる重要な部分だが、無重力の環境では、前庭の働きが著しく乱される。人間の内耳のなかには耳石器があり、耳石器の内部には微小な毛と液体が存在している。
地球の重力環境では、人体が加速したり方向を変えたりすると、耳石器の内側にびっしり生えているこの微小毛の上に乗っている炭酸カルシウムの小さな石(耳石)が動き、微小毛がそれに連動することによって、耳石器全体を浸している液体が流動し、その刺激が感覚細胞を経て脳に伝わる。
その結果脳の持ち主は自分がどのように動いているかを知覚し、必要に応じてその動きを正す(前かがみになる、頭の位置を変えるなどによって)ことができるわけだ。
重力は微小毛の上に乗っている耳石を安定させる働きをする――振り子が定められた弧の上しか動かないのと同じように、重力のおかげで耳石は常に一定の方向を向く。ところが宇宙では、耳石を安定にしてくれる重力も、重力に基づく慣性も存在しないので、耳石は「漂い」はじめる。
体全体も混乱し、矛盾する知覚データを矢継ぎ早に脳に送り、通常の方向感覚は失われてしまう。その結果吐き気を催すことも少なくない。
さいわい、時間が経てば、ほとんどの人間は知覚入力信号の変化に適応できるので、体には何の問題もなくなる。しかし、なかには立ち直れない人もいる。ありがたいことに、その影響はたいてい一時的なものだ。
地球上では重力によって足のほうへと引っ張られている体液も、宇宙滞在中はこの力を受けないので、体内で本来とは違う場所に移動する。多くの宇宙飛行士が宇宙に達した直後から頬がシマリスのように膨らむのはこのためである。
おかげで体は、体内に水分が多すぎると思い込み、余分な水分(と錯覚したもの)を捨てようとする。その手段の1つが排尿量を増やすことだ。その結果、血液量が平均で約20%低下する。
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