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宇宙旅行で「低重力」が人体に与える深刻な影響 生命を維持するための「星間宇宙船」の設計

東洋経済オンライン / 2024年6月21日 15時20分

また、心臓は重力に抵抗して働く必要がなくなるほか、下半身から戻る血液が減少する(人間が普段歩くとき、脚の筋肉が収縮して血管を圧迫し、血液が心臓に戻るのを助けている。しかし宇宙では地上にいるときのようには歩かないので、血液が戻るのを助ける作用もない)。

これらのことが相まって心筋は弱まってしまう。血液を汲み上げる働きがにぶると、心筋があまり使われなくなり、血圧は下がる。

重力のある場所に戻るときに生じる問題

このように血液量と血圧が低下した状態にある人間が重力のある場所に戻るときには、注意が必要だ。

重力のある環境に戻ると、脳血流が不足して立ちくらみや失神が起こることが多いが、これは宇宙で体液が減少し、心筋や下肢筋肉が萎縮しているために、重力環境で脳まで血液が上がりにくくなって起立性低血圧を起こすからである〔訳注 これを防ぐために帰還時には下半身を締め付けるウエットスーツのようなものを身に着け、大気圏突入直前には2リットル程度のイオン水を飲むなどの措置が取られるようになっている〕。

これは重大とはいえ一時的な問題だが、もっと深刻なのが骨強度と筋肉量の低下だ。

人間は通常の重力がないところで過ごすと、1カ月当たり骨量が約1%低下する。負荷荷重がかかっていないと骨は強度を維持できない。

一方、骨強度は骨量に密接に関連している。必要な負荷荷重は、地球上なら単に歩いたり、走ったりなどの日常の活動を地球の重力の存在のもとで行っているだけで簡単に得られる。

一歩踏み出すごとに、重力で体が下に引っ張られるが、その重力がなければ、骨量と骨強度は低下してしまう。一歩ごとに重力が骨を圧縮して刺激する効果など、あまりに些細で気づかないものだが、それが骨を強化してくれているのだ。

私の携帯電話のフィットネス・トラッカー〔訳注 歩数、脈拍、消費カロリーなど個人の運動のデータを記録できるデバイスやアプリケーション〕によれば、私の1日当たりの歩数は6000から11000歩なので、私の骨は1日当たり6000から11000回刺激を受けており、おかげで必要な強度を維持している。

宇宙飛行士は、骨強度維持のために特別に設計された装置を使って、スケジュールにしたがって運動しなければ、骨強度が維持できるような刺激を受けることができない。しかし、それほどがんばっても十分とは言えない。弱くなった骨は折れやすい――骨粗鬆症の場合と同じだ。

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